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Theobroma ――南の島で5

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Theobroma ――南の島で5


「アーチャー、時間だぞー」
 扉を叩く音がする。
 うるさい、静かにしろ、シロウが起きる。
 重い瞼は片方だけだが、どうにか上がった。
 まだ明けきってはいない、早朝。漁に出る時間。
(ああ、そうか。オレが港に来ないから呼びに来たのか……)
 ずかずかと勝手に上がり込んでくる足音が複数。
 来るな、と止めようと思うが、身体がまだ寝ているのか動けないし、声も出ない。
 眠ったのは、ついさっきだ。眠い。寝かせろ。
「おーい、アーチャー」
 半開きの部屋の扉が押し開けられて、息を呑んだ気配がする。
「あらら……」
「はーぁー」
「ほんっと、しようがねぇなぁ」
 ああ、しまった。
 シロウを扉側にしていた。これでは丸見えだ。
「うーわー、エロ雑誌より、エロいー」
 まあ、脚も絡んでいるし、シロウの腰を抱き寄せたままだし、いろいろとそのままだし……、あ、シロウに何か掛けなければ。
「ヤりまくったな、昨夜」
 まくっていない、一回だけだ。
 手に触れたシーツを引っぱってシロウに掛け、重い頭をどうにか片手で支えて上げた。
「おー、起きたか、アーチャー」
 苦笑交じりのサグが、ベッドの側に立っている。
「……悪い、休む」
「ああ、だろうな……。っつか、ははっ、かーわいー」
 少し身体を丸めて、横になったまま眠るシロウの頬をつついてサグは笑う。
「触るな、見るな」
「安心しきっちゃって、まー」
 マハールがにやにやと笑う。
「だから、見るな」
 シーツでさらに包み、シロウを隠す。
「けちー」
「お前、独占欲強すぎー」
「なんとでも言え、お前らにはやらん」
 憮然と言うと、こいつらは腹を抱えて笑っている。
「んじゃ、ごゆっくりー。カカオマスの作業の方にも言っといてやるよ、シロウは休みって」
「ああ、頼む」
 昨日、シロウが倒れたことは、ターグのおふくろさんのおかげで知れ渡っていることだし、シロウが休んでも、みんな文句は言わないだろう。
 賑やかな仲間たちが出て行って、再びベッドに沈む。
「シロウ……」
 シーツに包んでいた顔を覗き込み、抱き寄せる。
「シロウ、すまない……」
 呟いて、額に口づけた。
 オレはたくさん謝らなければならない。
 シロウのことを何も理解していなかったことを、辛いときに突き放してしまったことを……。
 謝って、それから、ずっと一緒にいてくれと、愛しているんだと、オレの想いを伝えなければ。
 シロウは言葉にしてやらなければ、おかしな方へと考えてしまう。いや、言葉にしても予想外の方へ向かってしまう。
 真正面から、シロウが理解できるように伝えなければならない。
(どんなふうに言葉にするのが一番だろうな……)
 そんなことを考えながら、シロウを抱き寄せて目を閉じた。



***

 目を開けると、褐色の首筋が見えた。
 片腕で肩を抱き寄せて、髪を撫でて、空いた手で耳をくすぐる指先、時々髪に落ちる唇。
「アー……チャ……」
 呼んだけど、あんまり声は出なかった。
「目が覚めたか?」
 優しい声にすぐに答えることができなくて、小さく頷いただけだ。
 くす、と笑う吐息がうれしい。
「っくふ……」
「シロウ? どうした?」
 笑い出すと、ちょっと止まらなくなった。
 俺をずり上げて、顔を覗き込んでくる。
「何か、おかしいか?」
 咎めるんじゃなくて、アーチャーの顔は笑っている。
「ん。うれしいんだ」
「そうか」
 そのままキスを受け取って、またアーチャーに抱き込まれた。
「仕事……」
「今日は休みだ」
「でも、アーチャーは、漁に――」
「もう午後だ」
 そっか、俺、ずいぶん寝ちゃったんだな……。
「だからシロウ、今日はずっと一緒だ」
 子供みたいなことを言うアーチャーに、また笑いがこみ上げた。

 久しぶりにアーチャーの作った食事を食べた。
『おいし……』
「何か言ったか?」
「あ、うん、おいしいなって」
「そうか」
 穏やかに笑ってくれるアーチャーは、もう怒っていないんだろうか。
 帰って来いと言ってくれたし、ベッドでは何も言わなかったけど、俺は許してもらえたと思っていいんだよな?
「シロウ? まだ、体調が悪いか?」
 心配そうに訊くアーチャーに首を振って否定する。
「ちょっと、だるいだけだよ」
「……悪かった」
「え?」
「シロウは、倒れたばかりだというのに、その……」
 視線をさ迷わせて、アーチャーは叱られた子供のように少し俯いた。
「手加減してくれたじゃないか」
「う……、あ、ああ、まあ……」
 片手で口を覆ってしまったアーチャーは、なんだかわからないけど反省してるみたいだ。俺が断らなかったんだから、そんなこと気にしなくていいのに。
「大丈夫だよ、アーチャーのせいでだるいんじゃないから」
「ああ、まあ……、っと、そうだった、シロウ、マトウから頼まれていたことがある」
 アーチャーは、すっかり忘れていた、と言って続けた。
 慎二は、明日の午後に島の人たちを広場に集めて意見を聞きたい、と言ったそうだ。
「そっか……」
 やっぱり慎二も考えていたんだな、島の人たちの意見を聞こうって。
「アーチャー、俺……」
 俺もちゃんとアーチャーに言っておかないと。
 島の人たちの結論次第では、この島にいられなくなるかもしれないって。
「俺……っ……」
「シロウっ?」
 話そうと思うのに、全然、言葉にならない。涙ばっかり出て、伝えられない。
「シロウ、泣くな、な? ほら、泣いていたら、ご飯が食べられない、から……」
 向かいに座っていたアーチャーは、俺の側に来て慰めてくれる。
「……っ、ご、ごめっ、アー、チャ、ご、っ、め、」
「謝らなくていい」
 背中をさすって俺を抱き寄せてくれるアーチャーに縋って、せっかくのご飯もそっちのけで、子供みたいに泣いてしまった。

「シロウ」
「ん……」
 食事はどうにか食べ終えて、ベッドでアーチャーに身体を預けたまま、ぼんやりと、風にカーテンが揺れるのを見ていた。
「何を言おうとしていたんだ?」
「…………うん、……その……」
 少し落ち着いた。
 泣いたからか、ちょっとすっきりした。
「あの、さ……、もし、島の人たちが、間桐商事にカカオマスの取引を任せるって方針に決めたら、俺、出て行かないと……」
「は? な、どうしてだ!」
「俺、慎二としかビジネスはしないって、言っちゃったし……」
「あ、ああ」
「島の未来を考えたら、大きな会社との取引があった方がいいと島の人たちは思うだろうから、そうなると、俺は、ここでカカオマスは作れないし、島を、出ないと……」
 ぎゅう、とアーチャーが抱きしめる。
「だめだ」
「でも、そう決まったら――」
「たとえ、マトウの会社と取引することになったとしても、シロウは離さない」
「だけど、」
「うるさい! シロウはここにいればいい! カカオも島も関係ない、シロウはオレの傍にいればいい!」
 駄々っ子みたいにアーチャーは言う。
 それが、すごくうれしくて、なんだか、また泣けてしまった。
「アーチャー、俺、」
「シロウはここにいればいい。オレの腕の中に」
作品名:Theobroma ――南の島で5 作家名:さやけ