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1.

長さはいろいろあれど、ひとつの区画と次の区画の境界には、必ず間をつなぐ通路があって、リュウは、そこをくぐり抜ける瞬間が好きだった。
下層街からレンジャー基地のある区画へ入るときにも、短い通路があり、ほんの一瞬だけ視界が暗くなる。
ある空間から次の空間へ、その次にあるのがどんな場所かは、その暗い通路を抜けてみなくてはわからない。
子供の頃は、そこを通り抜けるときの期待感に胸がぐるぐるした。
次に目の前に開けるのは、勿論、よく知り尽くした場所なのだけれど、暗い通路から視界が明るくなるそのときだけは、まるで初めて見た場所に出たかのように、感じる。
そして、リュウの想像の中では、目の前に開いた世界がどんなのかは、踏み出してみないと、わからないのだ。
幾度となく通り抜けた、その短い通路が、今日のように特別な意味を持つこともある。
「伏せ! 立て! 伏せ! 立て! 遅いぞ新米!」
「了解!」
「そこのお前、遅れてるぞ、居残り30回追加。他の者は、こっちへ集合!」
「了解!」
「お前たちも、これで訓練期間終了だ。隊長からの訓示がある。」
「隊長に敬礼!」
「敬礼!」
額の前にかかげた右腕を30度の角度に挙げて敬礼し、2週間の訓練を終えた新米のレンジャーたちを、ゼノはゆっくりと見回した。
「ひとりの落伍者も出さず、全員が訓練期間を終えたこと嬉しく思う。今日から仮配属の部署で任につくことになる。
実際の任務は厳しいぞ。――期待している。」
「了解!」
敬礼を返しながら、リュウは、ゼノの背後に立っている少年を、見た。
全員が気をつけの姿勢で、隊長のほうに向かっているなか、少年だけは、ゼノの背後に立ち、両手を背中に回した姿勢で、新米レンジャーたちの上にぶしつけな視線を投げつけている。
下層街では見たことのない生粋の金髪で、瞳の色とあわせた、少しくすんだグリーンのレンジャースーツを身につけている。
その視線が、リュウの上で、止まるかとおもったが、すぐにその頭上を通り過ぎ、退屈そうに、また最初のところへ戻っていく。
いったい、何者だろう、とリュウは思った。
レンジャーの上官にしては、リュウたちとそう年令が違うようには、見えなかった。
新米レンジャー全員が好奇心むき出しに見つめているのに気付き、ゼノが、少年を振り返った。
「ボッシュ1/64、本日より、合流するように。エドマンド、後は頼む。」
「はい。」
ゼノが退席すると、少年のIDを聞いた新米レンジャーたちの中にひそひそと囁く声が起こった。
(1/64? こんなとこに何しに来たんだか?)
(訓練期間は無視かよ?)
(幹部候補だ、逆らわない方がいいぜ。)
ざわめきの中、リュウだけは黙って立ち、じっとその少年を見ていた。
囁き声を聞きながら、まんざらでもなさそうな表情で、全員を見下ろしていた少年が、2度目にリュウのほうに顔を回し、今度は、目が合った。
ほんの一瞬だけ、視線がぶつかった。
だが、ボッシュと呼ばれた少年は、少しも表情を変えず、電柱や犬を見るように、リュウの顔をながめただけだった。
「お前ら、いつまでうだってる! 即刻それぞれの部署へ向かえ、解散!」
「了解!」
リュウがふたたび視線を壇上に戻すと、少年はもう背を向けて、配属係のエドマンドとともに、訓練所の出口へと向かっていた。
ここ下層区で耳にした覚えがないほどに高いD値をもつ少年について、その後に向かったロッカールームでは、にぎやかに噂話が囁かれていたが、それにも、リュウは興味を惹かれなかった。
しょせん、リュウには無関係な世界の話だ。
だが、予想したよりも早く、少年とは再会することになった。
ロッカールームで身支度を整えたリュウが、仮配属先の書かれたプレートを持って、レンジャー基地の廊下を急ぎ、部屋番号を確かめて扉を開くと、さっきの少年の背中が、まっさきに目に飛び込んできた。
その背中の向こうに、管理ボードを手にしたエドマンドの姿も見える。
「リュウ1/8192、本日づけで、こちらに仮配属に決まりました!」
初めて、はじかれたように、少年が、振り返った。
ひるまずに、リュウが少年のほうに歩み寄り、その左に立った。
「あぁ、ご苦労、さっき聞いたな。彼はボッシュ1/64だ。
当分、いっしょにパトロールに出てもらう。同じ新人同士、仲良くやってくれ。」
エドマンドのうながしで、リュウは、金髪の少年の方を向き、右手を差し出した。
「了解。よろしく、ボッシュ。」
差し出されたリュウの手に、ボッシュはトカゲでも見たような驚きを向け、ついで、笑顔になった。
「よろしくな、リュウ。」
ボッシュは差し出されたリュウの指先を握るふりをしただけで、その手に触れることはなかった。



半開きのロッカーの扉を、リュウはすばやく閉めたつもりだった。
けれども一瞬遅く、背中合わせで着替えをすませた同僚のジョンが、先端のとがったブーツを、リュウのロッカーの扉の間にねじ込んだ。
「なんだよ?」
リュウは、片方の眉をひそめてみせたが、訓練の間に親しくなった同僚には通じるはずもない。ジョンは、遠慮なく、ぴったりした黒革のスーツを身につけた長い脚を跳ね上げて、リュウのロッカーの扉を蹴り開けてしまった。
「ふーん、こっちの台詞だ、なんだよ、これ? 支給品は、任務後武器庫へ預ける規則だろ?」
リュウのロッカーの奥に鈍く光るレンジャー支給の剣を見て、にやにやと目配せする。
「個人訓練のために借りてるんだ。許可は、とってる。……わ!」
ジョンは、後ろからリュウの首に腕を回し、ふざけてリュウを背後に引っ張った。
「ジョン! ふざけるなよ!」
「リュウ……俺のロッカー、見てみろよ?」
「ロッカー?」
巻きついた腕をようやく引き剥がし、そこに開いていたジョンの個人ロッカーを覗き込み、リュウは思わず笑った。
黒革の上着の奥に隠してある、支給品の銃のグリップが、いくつも並んでいる。
「お前と、組むと思ってたよ。」
「そうだな。」
ジョンが視線を合わせずにさらりと言い、リュウは笑いながら、自分のロッカーの扉を閉める。
「幹部候補のエリート様相手じゃ、この先大変じゃないか。
訓練期間は顔も見せなかった。ローディ相手じゃ、訓練するのも嫌だって、奴だろ。」
「しかたない。命令だよ、割り切るさ。
どうせ短い間かもしれないし、かなりのエリートだそうだし。」
「普通なら、出会うこともない相手だ、いいよなリュウ。」
少し太り気味の体型で、訓練期間中なにをやるにも一番最後だったマックスが、私服のズボンを引き上げながら、声をかけた。
今日もまた、一番最後に着替えを終えて、ロッカールームを出る気のようだ。
「でもさ、リュウがちょっと、羨ましいよ。」
「そりゃ、どういう意味だ、マックス。」
閉まったロッカーの扉の上に腕をおいていた長身のジョンが、のぞきこむように扉の陰のマックスに問い詰めた。
「あ、え…と、だってさ。D値1/64だろ? 普通なら、どうして下層街に来たんだろう、てくらいのエリートで、
そいつに気に入られたら、ひょっとしたら、ひょっとして、上まで引っ張ってもらえるんじゃない?」
ジョンとリュウは、思わずマックスの顔を見つめた。
「上まで?」
「俺たちが?」
作品名:EXIT 作家名:十 夜