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「母親、かどうかもわからないけど、女のほうは、ひとりで逃げたぜ。別室にいたガキのほうは、お前の言うとおり、保護施設送致に決まった。ずいぶん、強情なガキで、組織のことは、なにも言わなかった。」
リュウがわずかにうつむき、「そうか。」とだけ、口にした。ボッシュは、影になって、その表情が、よく見えなかった。
リュウがサインを書き終えて、ペン型の記憶装置を、ボッシュに返した。
そのとき、右手の廊下の先を曲がる人影に、リュウは気付いた。
うつむいた少女が、女性のレンジャーに手を添えられ、うながされて、廊下を無言のまま、歩いている。
「これ、!」と、リュウは、抱えていたスーツをボッシュに手渡すと、「ちょ、なんだよ!」とうなるボッシュを置いて、廊下を駆け出した。
少女のところへ駆け寄ってきたリュウの姿を見て、同行していた女性レンジャーが、なにか言おうと手をのばしたが、少女が足を止めたので、口出しをやめた。
アリーシャは、濃い褐色の瞳で、黙ったまま、リュウを見上げた。
リュウは、自然と、身をかがめ、少女を見返した。
「アリーシャ、俺は、きみみたいな子をたくさん助けたくて、レンジャーになったんだ。
これから行く場所は、身寄りのない子を収容する施設で、ちっとも、怖いところじゃない。
きみが強いことは知ってるけど、でも、もしも、なにかあったら、どうか、俺に知らせて。
きみの移送先は、ちゃんと確かめて、会いに行く。」
少女の瞳が、わずかに揺らぎ、目をそらすように、うつむいた。
ごわごわした厚い生地のポケットに、右手を突っ込んで、おずおずと、リュウの方へと、突き出す。
リュウが、両手のひらで、アリーシャの手を支えると、小さな手が開き、その中に、銀白色の尖った鉱石が、見えた。
リュウは、ゆっくりと、両手を閉じて、アリーシャの手を包み込み、その手を、もう一度、閉じさせた。
「それは、きみのだろう? ちゃんととっておいて。いつか、なにかの役に立つかもしれない。」
アリーシャは、差し出した手を、ポケットの中に引っ込めると、小さな声で、「…ありがとう。」と言った。
最下層特有のなまりがあるけれど、揺らぎのない、綺麗な声だった。




 少女とつきそいの女性レンジャーを見送るリュウの横に、ぶらぶらとボッシュがやってくる。
そのまま、壁際にもたれかかり、あきれたような声を出した。
「お前、あの鉱石の価値、わかってんのか?」
「……いいや。」 リュウは、頭を振った。後頭部でひっつめた髪の先が、それにあわてて追いつくように揺れるのを、ボッシュは、おもしろそうな目で見つめている。
「ま、いっか。それより、報告書出して、宿舎へ帰ろうぜ。」
そう言って、ボッシュはあくびをすると、手に持ったリュウのジャケットを丸め、壁際のダスト・シュートに投げ込んだ。
「あーーーー、俺の制服!!!」
「何言ってる。ボロクズだろ。処分してやったんだぜ?」
「渡すんじゃなかった……ああ、どうしよ。制服代、前借りできるかなぁ。」
「お前、これからも、俺のパートナーでいる気なんだろ?
制服ぐらい、毎日新しくしろよ。
あと、安物の武器もやめろ。それから、お前の使ってる旧式の端末、あんなのいまどきジャンク屋でも売ってない。ありえないぜ? 買い換えろよ。」
「無茶なことばっか、言ってなよ……。」
ボッシュは、勝ち誇ったように笑って、くるりときびすを返し、背中を見せる。
その向こう側の表情が、なぜだか、リュウには、想像できる気がした。



長い任務を終え、基地を出て、下層街へと続く短い通路をくぐり抜けると、つかの間、視界が暗くなる。
その先にあるのがどんな場所かは、暗い通路を抜けてみなくてはわからない。
けれど、ひとりで、くぐり抜けるわけじゃない。
息を吸って、止めて、暗い通路をくぐり抜けたら、
その先に、新しい世界が見えるんじゃないかと、いまも、信じてる。


連結通路を先にくぐったボッシュは、もう自分の庭のような足取りで、夕闇の紫色に変わり始めた、下層街高台の大階段をさっさと降り始めてる。
リュウが来ることを疑わない、その背中を追って、リュウはくすりと笑い、足を速めて、大またに階段をとび降りた。

END.
作品名:EXIT 作家名:十 夜