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EXIT

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せっかく、ここまで順調に上がってきたのに、急速に上昇してくるエレベータにつきあげられて、岩の天井に押しつぶされるのは、願い下げだったが、機械で巻き上げているリュウの命綱の速度は速まらない。
自分の体を引き上げる命綱を握りなおすリュウの目の前で、するすると動いていた2本の金属線のうち、上昇していたほうの先に巨大な四角い分銅が現れたかと思うと、あっという間に、天井のほうへと吸い込まれるように消えていく。
残る一本の金属線は、落下の速度で、下へと流れていった。
足元が、すうっと、涼しくなった。
ゴオン、と大きな金属の箱がたたきつけられた音が、はるか足元の底からひびいてきたかと思うと、不気味な静けさは、内側から破られ、ついで、耐え切れなくなったように、たまりきったものが地下の闇の中で、一気に火がつき、はじけた。
円筒の形をした空間を、下から上がってきたなにかが、駆け抜けた。
それは、音というよりも、衝撃波に近いものだった。
リュウの足元の、いままでは闇だった底の部分から、もりあがるようにやってきた熱波が、リュウの全身を襲い、ぶら下がっていた体を軽々と持ち上げて、弾き飛ばした。
命綱のワイアにつながれたまま、吹き上がる熱い風の速度で、斜め上の岩壁にたたきつけられたリュウは、かろうじて片目を開き、反対側の岩壁に、四角く切り取られたエレベーター乗り場を見た。普段は閉じている金属のドアを全部開き、そこにつめかけている重装備のレンジャーたちが、無駄と知りつつ、数メートル離れた距離を少しでも埋めようと、リュウのほうに手を伸ばしている。
黒尽くめの人影の中で、目立つ金色の髪が、今度は、まっすぐに届く声で叫んだ。
「こっちへ跳べ!」
リュウは、たたきつけられた岩壁を、無我夢中で蹴りつけ、手と体をいっぱいに伸ばして、声のする方向へと跳躍した。
底がないようにも思われた、足元の地下深くから、白く濃く丸い煙のかたまりが、急速にせり上がり、リュウのいる場所へと近づいている。
壁を蹴ったリュウの体は、一度下へと沈み、吊り下げられたワイアに翻弄されるまま、反動で、もう一度、浮き上がる。
救助隊員のつめかけた脱出口が、ぐんぐんと近づき、穴の縁ぎりぎりに立っていたヒッグスの伸ばした手の先に、リュウのグローブの先が触れた。
けれど、つかもうとした指は、するりと抜けて、ふたたび遠ざかろうとする。
あきらめそうになったリュウの手首を、しかしもう一度、黒い手袋が追いかけ、つかみなおすと、自分たちのいる方向へと、強く引っ張る。
リュウの頭上で、白い軌跡が円を描き、その細い切っ先が、リュウと天井をつないでいたワイアを、ぶつんと断ち切った。
急激に落下しようとするリュウの腕を、ヒッグスの両手と、それにつづいたいくつかの腕がつかみ、突然自由になったリュウの体を、脱出口へと、引き寄せた。
いまや、深くうがたれたエレベータの穴全体が、高温の熱気を噴き上げる煙突に変わっていた。
壁に体をぶつけながら、かろうじて穴の縁にぶら下がったリュウは、ベルトといわず、ジャケットといわず、あちこちを滅茶苦茶に掴まれて、乱暴にひっぱり上げられた。
ようやく穴の縁に膝をつくことができたリュウに、休むことを許さず、大きな声が、叱咤し、追い立てる。
「おい、ぐずぐずするな! 走れ!」
「全員、退避するぞ!!」
背後の煙突から、熱風とともに分厚い煤煙が盛り上がり、その自然の力で、リュウたちをエレベーター・ホールへと押し出す。
転がり出たリュウたちは、ちりぢりとなり、ホールの反対側にぐるりと待機した重装備のレンジャーたちのところへと、全力で駆け込んでいった。
強化プラスチックでできた楯のうねりの中に、リュウを含む救助員全員が飛び込むやいなや、隊長の凛とした声が命じた。
「よし、爆破せよ。」
重装備のレンジャーの群れの中に転がり込んだリュウが、なんのことかと振り返ると、重なる破裂音に続いて、ぽっかりと四角く開いたままのエレベーター乗り場の向こうに、ごろごろとした岩の塊が落下するのが見え、立ち昇る濛々とした白煙をかき消すように、多量の水が、勢いよく地下へと垂直に落ち始めた。
水の流れは、勢いを減らす事のないまま、たくましく、太い流れとなって、リュウたちがさっきまで、ぶら下がっていた奈落へと降り注ぐ。
地下から昇ってきた爆発の炎と、底の抜けた天井から降り注ぐ多量の水が、たて穴の中でぶつかりあって、大きな水蒸気のかたまりが生まれ、エレベーターホールの床に、霧のように這い出した。
さっきリュウを追ってきた地下からの炎と煙が、その上に覆いかぶさる水を内部から明るく照らし、ぱちぱちと火花を散らし、やがて、滝のように上から落下する水の力に負けて、次第に黒く変色し、もといた地下へと、押し戻されていった。



6.

結局、垂直の穴を落ちる水の流れは、2時間も降り続き、地下の採掘抗の爆発の火力を抑え、ほかの部分への延焼を食い止めた。
同時刻に、逮捕したトリニティを解放する取引の罠をはって、全員を捕縛するレンジャー側の計画は、採掘抗の爆発によって反政府組織が警戒したと見られ、あえなく失敗に終わっていた。
たて穴の天井を爆破して、その上に溜まっていた中層街の地下水を落下させ、採掘抗の火を消したのは、ボッシュの発案だった、という噂を、リュウは、連れて行かれた医務室で、ぼろぼろになったスーツを引っぺがされたときに聞かされた。
自分がなにげなくつぶやいた一言を、覚えていたんだ、と、リュウは、変なところに感心したが、本当のところは、わからない。
岩壁に打ちつけたせいで、あちこちに赤や紫の派手な模様ができていたけれど、幸い、火傷もそうひどくなく、リュウは、念のための精密検査が異常なしと出ると、すぐにそこから解放された。
自分の身を守ったスーツを丸めてわきに抱え、医務室から退出すると、ブラインドの隙間から漏れるオレンジ色のしましまに全身を染め分けたボッシュが、かったるそうに窓に寄りかかったまま、待っていた。
「よう。」
「だいじょうぶ、打ち身だけで、どこも異常なしだって。」
「聞いてねぇよ。お前が愚図だからだろ。」
「そうかも。ところで、待ってたの?」
「まさか。これ、報告書だ。提出前に、お前のサインが必要だとさ。」
ボッシュが、細長いペン型の記憶装置を放り投げ、受け取ったリュウがその端っこを押すと、ペンの胴体部分に入ったスリットから、ホログラムの報告書が空中に吐き出された。記憶装置の内部に収納されていたタッチペンで、書類の映像の隅っこに、リュウは手早くサインを書き入れる。
「そういえばボッシュ、あのアリーシャって女の子、施設送りになるって、耳にしたんだけど、本当なの?」
「そんな名前だっけ? お前、よく覚えてるな?
母親のほうは、事情聴取中に逃亡したぜ。
母親の名前もおそらく偽名で、トリニティの計画に関係してたんじゃないか、って言われてる。
結局、自分たち親子は人質だと言い立てて、仲間を解放するつもりだったんだろう。
そんなやつらを助けたなんて、俺たちも、ずいぶん、馬鹿にされたもんだよな?」
「…そうなんだ…。で、あの子は、逃げなかったの?」
作品名:EXIT 作家名:十 夜