1 Romanze
「これは―、私のお下がりのドレスだけど、着て頂戴」
アルラウネがユリウスに着替えを手渡した。
「え…でも」
「私たちについてくるのでしょう?…ならば、女の子のあなたが…いつまでも男の子のふりをしている訳にはいかないでしょう?まさか、ずっとアレクセイの弟かなんかとして一緒にいるつもりだったのかしら?― 金髪の天使さん?」
ため息混じりにアルラウネは一気にそう言うと、そのややきつい大きな黒い瞳でユリウスをじっと見据えた。
「いえ…その」
そう言われてみれば、クラウスに一緒について行って―、その先の事は全く考えていなかった。そう、これから、本来女性である自分がどのように生きていくのかも。
「あなたの周りの人が、何故そのような生き方をあなたに強いたのかは、私も分かりません。だけど、あなたがこのまま男性として生きて…周りの人間を欺くのは、早晩不可能になるでしょう。違って?ならばこの機に女性として、私たちと新しい人生をやり直した方がいいのではないかしら?…出発は、少し伸ばします。使用人には皆暇を出したけど、寧ろこんな事態になった今となっては好都合だわ。急いであなたの旅券を用意します。― あなたは、そうね、私の従姉妹という事にしましょう。あなたにもこれからやってもらわなくてはならない事、身につけてもらわなくてはならない事、そして…覚悟して貰わなくてはならない事、沢山あります。…下りるなら今よ?」
「やめません!…ぼくを…一緒に連れて行って下さい!」
― お願いします。
ユリウスの碧の瞳が、アルラウネを見つめる。その瞳は、必死だった。
「分かったわ。じゃあ、まずそのドレスに着替えていらっしゃい。男の子のユリウス、レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤとは…今日で決別なさい。これからは…そうね、私の従姉妹という事で、ユリア・フォン・エーゲノルフでいいかしら?あなたの旅券も、その名前で申請します。よくって?着替えたら直ぐにこの屋敷を出て、他の場所へ潜伏します。
さ、支度を早く」
アルラウネに急かされ、一人残った居室でユリウスは着替えに取り掛かる。
何年か前のカーニバルの時に一度袖を通した以来の女物の服。
あの時は、まだほんの子供だった。
ジャケットを脱ぎ、ブラウスを脱いで、ズボンも脱ぎ去る。
白くてしなやかな―、細く華奢だが女性らしいカーブを描き始めた少女の肢体が露わになり、窓から差し込む月光に照らされ、姿見に映る。
その姿に思わず、ユリウスは手に抱え持っていたシュミーズで自分の胸元を覆う。
やがて雲が、先程自分の肢体を露わに照らし出した月を隠していく。
ユリウスは小さくホゥっと息を吐き、着替えにかかる。
上質の白いコットンのシュミーズは胸元の紐を締め上げていくと、自分の微かな胸の膨らみを否応なく強調させる。
鏡に映る…シュミーズ姿の自分に、もう先程までの男の子としての自分はどこにも見出す事は出来ない。細い腰、締め上げられて微かな谷間の出現した白い胸元、夜の闇にも柔らかに光る金の髪に覆われたなだらかなラインを描く肩、細い首の下で陰影を見せる鎖骨。今まで男装の下に秘められていた、本来の自分の姿。見馴れないこの鏡に映る若い女性の姿を目の当たりにして、思わず頰が熱くなり、両手で頰を覆う。
アルラウネがユリウスに着替えを手渡した。
「え…でも」
「私たちについてくるのでしょう?…ならば、女の子のあなたが…いつまでも男の子のふりをしている訳にはいかないでしょう?まさか、ずっとアレクセイの弟かなんかとして一緒にいるつもりだったのかしら?― 金髪の天使さん?」
ため息混じりにアルラウネは一気にそう言うと、そのややきつい大きな黒い瞳でユリウスをじっと見据えた。
「いえ…その」
そう言われてみれば、クラウスに一緒について行って―、その先の事は全く考えていなかった。そう、これから、本来女性である自分がどのように生きていくのかも。
「あなたの周りの人が、何故そのような生き方をあなたに強いたのかは、私も分かりません。だけど、あなたがこのまま男性として生きて…周りの人間を欺くのは、早晩不可能になるでしょう。違って?ならばこの機に女性として、私たちと新しい人生をやり直した方がいいのではないかしら?…出発は、少し伸ばします。使用人には皆暇を出したけど、寧ろこんな事態になった今となっては好都合だわ。急いであなたの旅券を用意します。― あなたは、そうね、私の従姉妹という事にしましょう。あなたにもこれからやってもらわなくてはならない事、身につけてもらわなくてはならない事、そして…覚悟して貰わなくてはならない事、沢山あります。…下りるなら今よ?」
「やめません!…ぼくを…一緒に連れて行って下さい!」
― お願いします。
ユリウスの碧の瞳が、アルラウネを見つめる。その瞳は、必死だった。
「分かったわ。じゃあ、まずそのドレスに着替えていらっしゃい。男の子のユリウス、レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤとは…今日で決別なさい。これからは…そうね、私の従姉妹という事で、ユリア・フォン・エーゲノルフでいいかしら?あなたの旅券も、その名前で申請します。よくって?着替えたら直ぐにこの屋敷を出て、他の場所へ潜伏します。
さ、支度を早く」
アルラウネに急かされ、一人残った居室でユリウスは着替えに取り掛かる。
何年か前のカーニバルの時に一度袖を通した以来の女物の服。
あの時は、まだほんの子供だった。
ジャケットを脱ぎ、ブラウスを脱いで、ズボンも脱ぎ去る。
白くてしなやかな―、細く華奢だが女性らしいカーブを描き始めた少女の肢体が露わになり、窓から差し込む月光に照らされ、姿見に映る。
その姿に思わず、ユリウスは手に抱え持っていたシュミーズで自分の胸元を覆う。
やがて雲が、先程自分の肢体を露わに照らし出した月を隠していく。
ユリウスは小さくホゥっと息を吐き、着替えにかかる。
上質の白いコットンのシュミーズは胸元の紐を締め上げていくと、自分の微かな胸の膨らみを否応なく強調させる。
鏡に映る…シュミーズ姿の自分に、もう先程までの男の子としての自分はどこにも見出す事は出来ない。細い腰、締め上げられて微かな谷間の出現した白い胸元、夜の闇にも柔らかに光る金の髪に覆われたなだらかなラインを描く肩、細い首の下で陰影を見せる鎖骨。今まで男装の下に秘められていた、本来の自分の姿。見馴れないこの鏡に映る若い女性の姿を目の当たりにして、思わず頰が熱くなり、両手で頰を覆う。
作品名:1 Romanze 作家名:orangelatte