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1 Romanze

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「オレは...あいつを置いては行けない。でも...姉さんも放って残ることもできない...どうしたらいい?」

「・・・・」

アルラウネはこの日まで...アレクセイを無事ロシアへ連れ帰るこの日まで、革命家としての魂を叩き込みできうる限りの教育をし経験もさせ、亡き恋人の遺言を果たすべく周到に準備してきた。
若い盛りの女遊びややんちゃにも時には目を瞑り、歳なりのストレスを溜め込まぬよう気も使ってきたつもりだった。弟の瞳を捉えた金髪の天使の存在を知ってからも冷静に彼の様子を窺い、ある程度の覚悟もしていた。

が・・・この土壇場にきての今夜のアクシデント・・・だが準備した睡眠薬を渡しただけで、敢えて彼女は弟に何も指図するような物言いはしなかった...言えなかったのかもしれない。そして、そのちょっとした詰めの甘さを、油断を悔やむことになろうとは。

想像以上に強かった二人の思いと、義姉も見捨てられぬと言いながらの弟の決意にほだされる形で、アルラウネはついに首を縦に振ることになったのだった。

「いいでしょう。けれど、彼女の当分の処遇については私に任せてくれるわね?準備すること、教えることは半端ないもの」

こうして、アレクセイはユリウスとのミモザ薫る涙の誓いの後、アルラウネを説得しなんとか許しを得たものの...。

―――任せるって...あいつ、キツーイ嫌味や小言をあびせられてるんじゃ...。

ロマンチックな雰囲気に浸る間もなく、早速アルラウネに連れていかれた恋人が気になって仕方がないアレクセイは、言い渡された旅立ちの準備もそこそこにユリウスの部屋の方へどうしても足が向いてしまうのだった。

「ん?」

ユリウスがあてがわれた部屋のドアが少し開き明かりが漏れているのに気付いたアレクセイは、アルラウネがどうやらいないのがわかると、ついノックもせずそっと入り口に立っていた。

―――あ・・・。

目に飛び込んできたのは、月明かりに浮かぶ一糸まとわぬ金髪の天使・・・先ほど熱い口づけを交わした恋人の裸体だった。
姿見で自らの身体を一瞬不思議そうに眺め、慌てて恥じらうように下着でその美しい胸元を覆い隠している。

―――やはり天使・・・いや、ヴィーナス・・・?

アレクセイの体は電流が走ったように動かず固まり、心は魔法をかけられたように陶酔し、その初めて見る美しく光り輝くものに目が釘付けになった。
あのヴァルハラの地下室で受けた以上の...しかし、今は甘やかさが漂う衝撃だった。

―――とにかく・・・おまえはもうオレの、オレだけのものだ・・・ああ・・・!

恋人がその裸体が透けるような薄く柔らかい下着をやっとつけ終えたとき、アレクセイは静かに彼女の後姿へ歩みをすすめた。

「⁉ど...いや、見ないで...」

ユリウスは突然姿見に現れた愛しい人の姿に驚きながらも、反射的に両腕を搔き抱くように胸元を隠してしまう。

「隠すな...いや、隠さなくていい...綺麗だ。ものすごく、綺麗だ...」

「...ア、レクセイ...?」

姿見越しに碧と鳶色の瞳は見つめ合う。碧の瞳が潤み始めるとアレクセイはそっとその背に近づき、恋人の華奢な肩を優しく抱きしめる。今にも壊れそうな儚い手ごたえがたまらなく愛しく、首筋や肩先に何度も口づけを落とした。

「あ...」

ユリウスは、鏡に映る愛しい人の唇を受ける自分の姿と、素肌に感じる初めての感触に戸惑いながらも、恋人の温もりに包まれる喜びに満たされてくのだった。

「本当にいい、のか?もうドイツには帰せないと思うし...この先どんなことがあっても、オレはおまえを離さないぜ?」

肩を抱いた手を少しゆるめると、アレクセイはカラダを離さないようにユリウスを向き合わせ、おでこも密着させ「ん?」と問う。

「ボクはロシア人になるんだよ?だって...あなたと結ばれたら...ボクにもロシア人の魂が注ぎ込まれる...そうでしょう?」

ユリウスは少し身を引きながらアレクセイの頬を包むと、決意を込めた、しかし彼の全てを受け入れるような愛溢れる碧の眼差しで鳶色の瞳を捉えた。

「ユリウス...」

「ア、レク...」

アレクセイは恋人の健気な決意に身を震わせる。そして思いの全てを注ぎ込むように、ユリウスはそれを全て受け止めるように二人は口づけを交わした。
長く甘い口づけ・・・その蕩けるような心地よさにユリウスがよろけそうになった瞬間、アレクセイはその薄い布を纏っただけの恋人をふわりと抱き上げた。
鳶色の瞳を見つめるユリウスの碧の瞳には、なんの迷いも戸惑いの色もない。

「愛してる...離さないで...」

「...離すもんか...」

若い二人の情熱の一夜を、ただ月のみが窓から柔らかな光を降り注いで祝福していた。

作品名:1 Romanze 作家名:orangelatte