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2 面影

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― ハァ…

アルラウネは一人ため息をつく。

1904年12月。
ドイツ、ミュンヘン某所。

いよいよドイツを離れる事となったアルラウネとアレクセイは、思わぬ経緯からアレクセイの恋人、ユリウス―、今はユリア を伴っての帰国となり、旅券などを急遽整える都合上、帰国を一月延ばし、ミュンヘン市内の他のアジトに三人で身を寄せる事となった。

勉強熱心だし元来聡明な質なのだろう。ロシア語の習得も早く、アルラウネが課した革命思想の知識の習得やロシアの歴史なども海綿が水を吸い取るように身につけていく。共に暮らし始めて早3週間―。ユリウスは早くも基本的なロシア語会話をマスターしつつあった。

― 問題はそっちよりも寧ろ…

アルラウネは頭を抱える。

彼女が話したがらない以上、どういう意図があって彼女が男の子として育てられたのかは、アルラウネには分からないが、問題は新しく身につけるべき教養の問題よりも、今迄彼女の一部であった、男性としての習慣、観念を捨て去り改める事の難しさだ。

とは言っても元々彼女が好んでしていた訳ではない男装と男性としての人生で、女性に戻ることを望んでいたとは彼女自身の口からはっきりと聞いたものの、無意識に身についた男性としての所作はなかなか抜けないようで、彼女も苦戦しているようだ。

ドレスと華奢な女物の靴に碧の瞳を輝かせるものの、その動きにくさに辟易しているようである。
輝く金の髪を結ってやっても、その時は嬉しそうな顔を見せるものの、じきに慣れないピンに頭が痛むのだろう…段々眉間に皺を寄せ、こっそりと髪を解いて気がつくと柔らかな金の髪を風に遊ばせている。
(アルラウネがそれに気づくと、何とも申し訳なさそうな顔をするので、ついついアルラウネも口から出かかった小言を呑み込んでしまうのだった)

作品名:2 面影 作家名:orangelatte