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6 15の決断Ⅲ

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1905年 八月初め

出産を間近に控えたユリウスは、夫と義姉の三人で暮らすサンクトペテルスブルグのアパートの一室で大きなお腹を抱えながら、熱心に本を読んでいた。

彼女が読んでいた本は、オーダーマンの『簿記教本 理論的及び実務上の解説』だった。
ドイツ語で書かれたその簿記教本はドイツ人会計学者オーダーマンによって著されたもので、ユリウスは一行一行内容を嚙み砕くように読み進め、時折分からない箇所にぶつかると、そこに細く裂いた紙の栞を挟み込んでいく。

それは、アルラウネがユリウスに貸し与えた本だった。

― アルラウネ

― 何?

― これからのために…、簿記を学びたいと思って。簿記を学べる教本か何かがあれば貸してほしいのだけれど…。

この義妹の健気な申し出に、アルラウネは本棚から一冊の本を取り出して彼女に手渡した。

― オーダーマンの『簿記教本』…?

― ええ、そうよ。私達の故郷の南ドイツはドイツでもいち早くヴェネチア方式の複式簿記を採り入れた、ドイツ国内でも簿記の伝統と歴史を持つ地域なのよ。かのゲーテも「簿記こそ、人間の精神が生んだ最も美しいものの1つである」と言っているわ。…まあ、それはさておき、簿記は身につけて置いて損はない技能だと思うわ。これを読んで励みなさい。分からないところは私にお聞きなさいな。…あ!でも無理は禁物よ?いいわね?

―はい。ありがとう、アルラウネ。

アルラウネの激励と、そして最後のいかにも彼女らしい気遣いにユリウスは、満開の笑顔を義姉に返した。

作品名:6 15の決断Ⅲ 作家名:orangelatte