7 家族
1905年八月下旬
― オギャァ~
アパートの一室に元気な産声が響き渡る。
ユリウス―、ユリア・ミハイロヴァはこの八月の終わりの夏の日に元気な男の子を産み落とした。
まだ16という若さの上、か細い華奢な身体つきの母体は、出産に際して周囲の人間を大いに懸念させたが、その懸念をいい意味で裏切る形で、彼女の出産は周りが気抜けするほどに安産であった。
そして生まれた子供は―、彼女の予想どおり亜麻色の髪の元気な男の子だった。
任務でアパートに戻って来られない父親のアレクセイに代わり、母親のユリウスの次にこの赤ん坊を抱いた身内は、―異国の地で身ごもった彼女をずっと心身ともに支え続けた義姉のアルラウネだった。
「抱いてあげて下さい」
ユリウスに赤ん坊を手渡され、アルラウネがその子を腕に抱く。
やわやわとした温かな感触とふんわりと匂う甘い香り。
「可愛いわ…。この子髪の色はアレクセイ譲りだけど…瞳はあなた譲りなのね。…もう名前は決めてあるの?」
「ええ。…男の子だったら、ドミートリィに…と、アレクセイが」
「ドミートリィ…」
「ええ。アレクセイに志を授けてくれた、かけがえのない人の名前をとって。…この子もその志を引き継いで…次の世代に繋げてくれたらいいな、と思って」
「そう…。ドミートリィ…。志を引き継ぐ…者…」
―ドミートリィ…
アルラウネは、その―、永遠に愛してやまない人の名を受け継いだその赤子に頬ずりし、なんどもその名を呟いた。
― オギャァ~
アパートの一室に元気な産声が響き渡る。
ユリウス―、ユリア・ミハイロヴァはこの八月の終わりの夏の日に元気な男の子を産み落とした。
まだ16という若さの上、か細い華奢な身体つきの母体は、出産に際して周囲の人間を大いに懸念させたが、その懸念をいい意味で裏切る形で、彼女の出産は周りが気抜けするほどに安産であった。
そして生まれた子供は―、彼女の予想どおり亜麻色の髪の元気な男の子だった。
任務でアパートに戻って来られない父親のアレクセイに代わり、母親のユリウスの次にこの赤ん坊を抱いた身内は、―異国の地で身ごもった彼女をずっと心身ともに支え続けた義姉のアルラウネだった。
「抱いてあげて下さい」
ユリウスに赤ん坊を手渡され、アルラウネがその子を腕に抱く。
やわやわとした温かな感触とふんわりと匂う甘い香り。
「可愛いわ…。この子髪の色はアレクセイ譲りだけど…瞳はあなた譲りなのね。…もう名前は決めてあるの?」
「ええ。…男の子だったら、ドミートリィに…と、アレクセイが」
「ドミートリィ…」
「ええ。アレクセイに志を授けてくれた、かけがえのない人の名前をとって。…この子もその志を引き継いで…次の世代に繋げてくれたらいいな、と思って」
「そう…。ドミートリィ…。志を引き継ぐ…者…」
―ドミートリィ…
アルラウネは、その―、永遠に愛してやまない人の名を受け継いだその赤子に頬ずりし、なんどもその名を呟いた。
作品名:7 家族 作家名:orangelatte