9 巣立ち
暫くの間念の為に…とペテルスブルグを離れていたアレクセイが、突然アパートに戻って来た。
しかも、片腕に銃弾を負って!
負傷した片腕を庇い、息も絶え絶えに帰宅したアレクセイに、思わず心臓が止まりそうにりながらも、ユリウスは応急処置をし、夫をベッドに寝かせた。
程なくしてアルラウネもアパートに帰宅したが、―その表情は、今までに見た事もないほど、厳しく険しいものだった。
「…アレクセイは?」
「さっき戻って来て…。腕にケガをしていたから、手当てをして…今は眠っている」
「…そう」
アルラウネはダイニングチェアに身を投げ出すように腰掛けると、テーブルに肘をついて、顔を両手に埋めた。
その様子にユリウスは、アレクセイとー、そしてアルラウネに、二人の間に一体何があったかを聞く事も躊躇われ、
「…ぼく…、夕飯の買い物に行くね」
とだけ言い残し、ミーチャを抱いて、籠を手に取ると、ショールを羽織ってアパートを出て行った。
作品名:9 巣立ち 作家名:orangelatte