9 巣立ち
― バン‼
テーブルを拳で叩きつけるような音と共に、夫の激したような怒声がし、ユリウスは思わずミーチャを抱いたまま小さくすくみ上がる。
その音にミーチャはますます激しく泣き叫ぶ。
やがて―、ドアが開き、悲しげな、しかし何かを悟って吹っ切ったような顔をした夫が部屋へ入って来た。
「アレクセイ!」
― 一体、何があったの?…
部屋に入ってきた夫に尋ねようとしたユリウスを遮るように、アレクセイは妻の両肩に手を置いて耳元で囁く。
「…ここを出る。…すまないユリウス。すぐ支度をしてくれ」
それだけ言うと、アレクセイはユリウスの「何故?」「一体アルラウネと何があったの?」という問いかけには一切答えず、クロゼットを開けシャツを羽織ると、黙々と自分の支度を始めた。
仕方なくユリウスも、僅かな自分の荷物と、ミーチャのお襁褓や着替え、日用品などを手早くまとめ始める。
作品名:9 巣立ち 作家名:orangelatte