9 巣立ち
「アルラウネ…」
ユリウスの呼びかけに…、ダイニングテーブルに頭を抱えていたアルラウネが顔を上げる。
その顔は青白く憔悴していた。
「あの…」
― この本…あなたに返さなくちゃと…。
ユリウスがおずおずとアルラウネから借りた本を彼女に差し出した。
そんな―、去年の今頃ミュンヘンで彼女を伴って帰国すると決めて以来妹のように身辺の面倒を見、女性として、1人の人間として教え導いた、この同郷の金髪の義妹に向き直ると、彼女に優しくその本を押し戻した。
「これは…あなたが持っていなさい。まだ途中でしょう?」
― 最後まで教えてあげられなかったのが心残りだけど…頑張りなさい。
そう言うと、無理やりその顔に笑顔を浮かべて、碧の瞳に涙を溜めた義妹の身体を抱き締めた。
抱き締められたユリウスの背中が小刻みに震える。
彼女の細い手がアルラウネの背中に回る。
「アレクセイを…弟をよろしくね」
抱き締めたユリウスの耳元で囁く。
アルラウネに抱きしめられたユリウスが小さく呟く。
「meiner schwester」
― 姉様…
と。
作品名:9 巣立ち 作家名:orangelatte