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9 巣立ち

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「ユリウス…」

やがて支度を終えたアレクセイが荷物とドミートリイを抱いて部屋を出てきた。

ドミートリイをユリウスに手渡すと、アレクセイは無言でアルラウネの前に進み出て、彼女の白い手を取り、恭しく口づけた。

「フロイライン アルラウネ・フォン・エーゲノルフ…我が姉、我が初恋の人」

囁くようにそう言うと、

「じゃあここで…さようならアルラウネ」
― ユリウス、行くぞ。

と吹っ切ったような顔で、まるで朝任務に出て行くかのように、彼女の頰にキスをすると、その部屋のドアを出て行った。

部屋の窓から出て行く三人、―義弟とその妻、彼らの息子― の背中を見送る。

彼女の見送る窓から見えなくなる角の所で一瞬ユリウスが振り返り、窓の方に向かって深々と頭を下げた。
そして彼女は前を行く夫の背中を小走りで追いかけ、角の向こうへと消えて行った。

― 永遠に愛してやまないドミートリイ‼ 私の使命はようやく終わったところよ。
ほら…‼ あなたの弟がいまわたしの手からはばたいてゆくわ。
あんなにも雄々しく…‼

一人窓辺に立つアルラウネの頰を熱い涙が伝った。

作品名:9 巣立ち 作家名:orangelatte