13 the first step
徒刑場の出来事から数日後―。再びミハイルがユリウスの部屋を訪ねて来た。
「よう…」
「…こんにちは」
―先日は…ありがとう。
ミハイルを部屋に通してお茶を出す。
「あんたにいい報せだ。どういう経緯があったかはわからないんだが―、アレクセイが減刑になって、死刑から終身刑になった。…あいつの身柄は近くシベリアのアカトゥイ収容所へ送られる」
開口一番のミハイルの報せに―、ユリウスの碧の瞳に涙が溢れる。
「あいつの事は―、俺がいつか必ず脱獄させてやるから。あんたも希望を捨てるなよ!それまでここで踏ん張って子供を育てて―生きていけるな?」
声を抑えて泣き続けるユリウスの肩を掴むと、彼女の涙で濡れた瞳に向かってミハイルが問いかけた。
ミハイルのその言葉にユリウスが、コクリと大きくうなずいた。
「よ~し。…じゃあ、ここからはあんたの事だ」
― これは、あんたの新しいアパートの鍵だ。前に住んでた場所よりは…若干落ちるが、まあ家賃の割にはいい所だと思うぜ。場所は―、ペテルスブルグに土地勘のないあんたが暮らしやすいように、前住んでたところと同じ地区だ。これがアパートの地図だ。上等なものじゃあないが、当面必要な生活雑貨も揃えといてやったから使うといい。次は仕事だ。あんた外国語とタイプライター、それから簿記も出来ると言ってたから、ボリシェビキのペテルスブルグ支部の事務所に話をつけといてやったぞ。ちょうどあちらさんも女性事務員を欲しがってたからな。あのアレクセイ・ミハイロフの女房と言ったら二つ返事で引き受けたぜ。乳飲み子抱えてると言ったら、子供がある程度大きくなるまでは事務所の空き部屋で子供の世話をしてもいいそうだ。良かったな。子連れ出勤OKだってよ。…仕事は来週週明けからだ。これが事務所の地図だ。…頑張れよ。
これからの事―、住まい、そして日々の糧を得るための仕事の事をユリウスに説明すると、ミハイルはアパートの鍵と地図、そして仕事先への紹介状と地図を彼女に手渡した。
「ありがとう…ミハイル。何から何まで」
―本当に…何とお礼を言ったらいいか…。
「なぁに。俺たちボリシェビキは…こうやってお互いに助け合って支え合って今まで活動してきたんだ。―だから、これからあんただって誰かの力になってやるときがきっと来るだろう。…そのときは、俺があんたにしたことを…その時に助けが必要な他の誰かに返してやればいいってことさ」
「そっか…」
「そうだ」
「ミハイルもこの事務所に勤めてるの?」
「いいや。俺は―普段は憲兵隊大尉パーヴェル・ラザレフとして陸軍憲兵隊の任務に就いてる」
「!!…それって危険な事なんじゃ…」
「そうかもな…。でもアシが着くようなヘマはしないさ」
「…気を付けてね」
「まぁな。てかお前、人の心配してる場合じゃないだろ?!」
「それもそうだね…」
― ふふふ…。
柔らかな笑みを浮かべたユリウスにつられるように、ミハイルの表情も和らぐ。
「じゃあ…俺は行くわ。…負けるなよ。…ユリア」
「初めて…名前、呼んでくれたね」
「そうだったか?」
「そうだよ」
― あなたも…気を付けて。
ドアの前で、ユリウスとミハイルは固い握手を交わし、それぞれの前途の無事を祈り合って別れた。
「よう…」
「…こんにちは」
―先日は…ありがとう。
ミハイルを部屋に通してお茶を出す。
「あんたにいい報せだ。どういう経緯があったかはわからないんだが―、アレクセイが減刑になって、死刑から終身刑になった。…あいつの身柄は近くシベリアのアカトゥイ収容所へ送られる」
開口一番のミハイルの報せに―、ユリウスの碧の瞳に涙が溢れる。
「あいつの事は―、俺がいつか必ず脱獄させてやるから。あんたも希望を捨てるなよ!それまでここで踏ん張って子供を育てて―生きていけるな?」
声を抑えて泣き続けるユリウスの肩を掴むと、彼女の涙で濡れた瞳に向かってミハイルが問いかけた。
ミハイルのその言葉にユリウスが、コクリと大きくうなずいた。
「よ~し。…じゃあ、ここからはあんたの事だ」
― これは、あんたの新しいアパートの鍵だ。前に住んでた場所よりは…若干落ちるが、まあ家賃の割にはいい所だと思うぜ。場所は―、ペテルスブルグに土地勘のないあんたが暮らしやすいように、前住んでたところと同じ地区だ。これがアパートの地図だ。上等なものじゃあないが、当面必要な生活雑貨も揃えといてやったから使うといい。次は仕事だ。あんた外国語とタイプライター、それから簿記も出来ると言ってたから、ボリシェビキのペテルスブルグ支部の事務所に話をつけといてやったぞ。ちょうどあちらさんも女性事務員を欲しがってたからな。あのアレクセイ・ミハイロフの女房と言ったら二つ返事で引き受けたぜ。乳飲み子抱えてると言ったら、子供がある程度大きくなるまでは事務所の空き部屋で子供の世話をしてもいいそうだ。良かったな。子連れ出勤OKだってよ。…仕事は来週週明けからだ。これが事務所の地図だ。…頑張れよ。
これからの事―、住まい、そして日々の糧を得るための仕事の事をユリウスに説明すると、ミハイルはアパートの鍵と地図、そして仕事先への紹介状と地図を彼女に手渡した。
「ありがとう…ミハイル。何から何まで」
―本当に…何とお礼を言ったらいいか…。
「なぁに。俺たちボリシェビキは…こうやってお互いに助け合って支え合って今まで活動してきたんだ。―だから、これからあんただって誰かの力になってやるときがきっと来るだろう。…そのときは、俺があんたにしたことを…その時に助けが必要な他の誰かに返してやればいいってことさ」
「そっか…」
「そうだ」
「ミハイルもこの事務所に勤めてるの?」
「いいや。俺は―普段は憲兵隊大尉パーヴェル・ラザレフとして陸軍憲兵隊の任務に就いてる」
「!!…それって危険な事なんじゃ…」
「そうかもな…。でもアシが着くようなヘマはしないさ」
「…気を付けてね」
「まぁな。てかお前、人の心配してる場合じゃないだろ?!」
「それもそうだね…」
― ふふふ…。
柔らかな笑みを浮かべたユリウスにつられるように、ミハイルの表情も和らぐ。
「じゃあ…俺は行くわ。…負けるなよ。…ユリア」
「初めて…名前、呼んでくれたね」
「そうだったか?」
「そうだよ」
― あなたも…気を付けて。
ドアの前で、ユリウスとミハイルは固い握手を交わし、それぞれの前途の無事を祈り合って別れた。
作品名:13 the first step 作家名:orangelatte