13 the first step
翌週―
アパートに居を移したユリウスは、鏡の前で身支度を整える。
長い髪はきっちりと編んで結い上げ、アルラウネのお下がりの白いブラウスに濃紺の細身のスカートに身を包んだその姿は、不思議とアルラウネにどこか似ているような気がした。
口元に紅をさし、頬にも薄く紅を掃く。
緊張でやや強張った青白い顔に赤みがともる。
「うん!大丈夫」
小さな声で鏡の自分に言い聞かす。
―アレクセイ、行ってくるね。
窓の外に広がる空の―、遥か彼方のシベリアの空の下にいる夫に向かって心の中で語りかけると、ユリウスはハンドバッグと―、ドミートリィの入った大きな篭を手にした。
「じゃあミーチャ、行こうか」
母親に話しかけられたミーチャがあどけない笑みを浮かべた。
ユリウスの新しい仕事先は―、アパートからほど近い市内の古びた雑居ビルだった。
― エカテリンブルグ通商―
とプレートの掛かった事務所のドアの前に立ち、一息スゥっと深呼吸してからドアをノックした。
「ごめん下さい。今日からお世話になります、ユリア・ミハイロヴァと申します」
その大して広くもなく―されども狭いわけでもないビルの一室に―、ユリウスの澄んだソプラノが響き渡る。
作品名:13 the first step 作家名:orangelatte