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20 オペレッタif ~レオ様が途中で退出編

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レオ様途中退出篇



そうこうしているうちに幕が上がり、ユリウスとレオニードは呉越同舟よろしく桟敷席で二人並んでのオペレッタ鑑賞と相成った。

―せっかくのオペレッタなのに…。なんでこの軍人と…。このドレスもどうせだったらアレクセイに見て欲しかったな…。

淡いリラ色のドレスのスカートを軽く両手でつまんで見下ろしながらユリウスは小さくため息をつく。
そんなユリウスのため息を耳ざとくレオニードが拾い、鼻で笑う。

「何ですか?」
ムッとした顔でユリウスがレオニードに尋ねる。

「フン。おおかた‟アレクセイにこのドレス姿見て欲しかった”とでも考えていたんだろう?…浅はかな女の考えそうなことだ」

「な…!」

思いがけずレオニードに図星を突かれ、ユリウスが真っ赤になって言い返そうとする。そんなユリウスの憤りなど意に介さず、レオニードは

「上演中だ。舞台に集中しろ」

と涼しい顔で言い渡すと、その黒い瞳を舞台に向け演目に集中する。

「…」

一方的に絡まれて憤懣やるかたないユリウスだったが、ひとたび舞台に見入ると途端にその世界と音楽に夢中になった。

碧の瞳をキラキラ輝かせて舞台に見入るユリウス―。そしてその横顔を密かに眺めるレオニード―。

あっという間に一幕が過ぎて行った。

一幕が終幕して一度目の休憩が始まるとすぐに、レオニードは再び手にしたボルサリーノを目深にかぶり、桟敷席を後にする。

「帰るの?」

不意に背中にかけられた澄んだソプラノにレオニードが足を止め振り返る。

「私も暇ではない」

「そんな事言って…。上演中ずっと‟ふん!下らん”って思ってたでしょ?…あなたこそ分かりやすすぎだよ」

さっきのお返しとばかりにユリウスがレオニードの心中を代弁する。

「な…」

目の前のリラ色のドレスの少女は、肩を上下に揺すりながらクスクスと笑っていた。
肩が動くたびに、彼女の金の髪が揺れる。

「何がおかしい…」

「おかしいよ…」

― フン!

憮然とした顔で鼻を鳴らすとレオニードは桟敷を出て行った。

― 人の事をあのように笑うなどと…全くもって無礼な娘だ!

劇場の絨毯ばりの廊下を大股で歩きながらレオニードは先ほどの肩を揺すって笑っていたユリウスの姿を今一度思い浮かべる。

― あの娘が笑うのを見たのは…初めてだったな。

レオニードは再び目深にかぶったボルサリーノの下で、フッと小さく微笑んだ。