22 暴動
右肩に刺されるような衝撃と焼けつくような熱さを感じ、ユリウスはその場に倒れ込んだ。
倒れたユリウスを、混乱状態になった人々が踏みつけていく。
―ミーチャ…。ア、レクセイ…。
ユリウスはそのまま意識を失った。
「侯!…あれは」
この暴動の鎮圧に乗り出したレオニード・ユスーポフとその部下ロストフスキーは、逃げ惑う人々で混乱を極めた市街の石畳に―、金色に輝くものを見つけた。
その金色の物体に近づくとそれは―、床に倒れて意識を失った、革命家アレクセイ・ミハイロフの妻の姿だった。
「おい!…娘!大丈夫か?…返事をしろ」
レオニードが駆け寄りユリウスを抱き上げる。流れ弾に当たったようで右肩の弾傷からおびただしい血が流れ出ている。倒れた彼女の上を人が踏んでいったのだろう。抱き上げると肋骨を折っているのか苦しそうに顔をしかめる。
「今…手当をしてやるからな。―ロストフスキー!辻馬車を拾え」
「は!御意」
ロストフスキーが辻馬車を拾いに行っている間に、レオニードはハンケチを割き負傷したユリウスの右腕にきつく縛り付け止血をする。
「う…」
腕を縛ると、ユリウスが痛みに顔をしかめる。
「我慢しろ…。すぐに馬車が来る」
「侯!こちらへ」
辻馬車を拾ったロストフスキーが少し離れた通りからレオニードに手を振る。
「今行く」
レオニードはユリウスを抱きかかえて馬車に乗り込むと御者へ行き先を告げた。
「ネフスキー通りの、ユスーポフ邸へ。けが人だ!なるべく揺らさないよう走ってくれ」
レオニードに抱きかかえられたユリウスが時折苦し気に小さなうめき声をあげる。
―軽いな…。
その身体は、一児の母親とは思えないほどに華奢でか細く、また目を閉じ長いまつ毛が影を作るその顔は妻のアデールや妹のヴェーラよりも遥かに若くあどけなくすらあった。
自分の腕の中でぐったりとしているその娘の、汚れた白い頬を、血のりと埃でもつれた長い金髪を、レオニードは優しく何度も何度も大きな手で撫で続けた。
作品名:22 暴動 作家名:orangelatte