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26 イゾルデ

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「神経は問題ないでしょう。良かったですね。残念ながら傷は少し残ってしまうかもしれませんが。後遺症の心配もないと思いますよ」

腕の傷を診たドクターがユリウスに経過を告げ、ナースに包帯を取り換えさせる

ドクターの言葉に、ベッドに上体を起こし腕をナースに預けていたユリウスと、その傍らで二人のやり取りを一部始終見守っていたレオニードが、安心したように頷いた。

「それと…。あれから何か思い出せたことはありましたかね?お嬢さん」

ドクターのその質問にユリウスは目を伏せ力なく首を横に振る。

首を項垂れた拍子に長い金の髪が白いレースの夜着に包まれた彼女の細い肩から胸元に零れ落ち、金のヴェールのように覆いつくす。

「そうか…。でもなんかの拍子に記憶が一気に戻ることも十分あるから、あまり気を落とさず、自分を追い詰めないようにしなさい。あとは、あまりベッドに横になっていると筋力が弱ってしまうので、そろそろ身体の負担にならない程度に動いてもよいでしょう。…ではお大事に。若様、失礼いたします」

ドクターがレオニードに恭しく頭を下げ、ユリウスの居室を後にした。

~~~~~~~~

「これは、どうだ?」
レオニードがユリウスの細い手首をつかむ。

「分かるよ。…痛い、レオニード。そんなに強く握らないで」

「…悪かった」
―では、…これはどうだ?

レオニードがユリウスの白く細い指を握る。

「これも…分かるよ。― もう!ドクターも神経は問題ないって、言ってたでしょう?」

少し困ったような笑顔をしてレオニードを軽く睨んでみせるが、そう言いながらも、ユリウスはレオニードに手を握られるがままになっている。

「…そうだな。では…」
― これはどうだ?

レオニードは彼の手の中にすっぽりと包まれているユリウスの白い華奢な指をそのまま唇へ持っていくと、その指先に優しく口づけた。

「…くすぐったい」
レオニードに右手を預けたまま、ユリウスが僅かに身を捩ってこそばゆそうに小さな笑いをもらす。

「神経は、問題ないな。さあ、少し休みなさい」

レオニードはユリウスの手を離すと、肩と胸元に零れ落ちた豊かな金の髪を片側に一つにまとめてやり、そのまま大きな手を彼女の背中に当てがうと、そっとベッドに横たわらせ、寝具を掛け、―最後に彼女の白い額にそっと口づけた。

優しいキスを受けたユリウスの顔が安心したように綻ぶ。

「目が覚めたら、少しオランジェリーを歩こう。あそこならば暖かいし、まだ花も残っているから、良い気分転換になるだろう」

レオニードの言葉に、寝具にくるまれたユリウスが小さく頷き、碧の瞳を閉じた。

作品名:26 イゾルデ 作家名:orangelatte