27 男装の美少女
ユリウスがユスーポフ家に運ばれてきて、はや二週間が過ぎた。
依然として記憶は戻らないままではあるが外傷はだいぶ癒え、室内や棟内を歩き回れるようになったユリウスに、ヴェーラが「いつまでも夜着のままでいるのは良くないわね」と着替えを持ってきてくれた。
そのドレスを手に取り、ユリウスはしげしげと、まるで不思議なものでも見るかのように眺める。
「あなたが運ばれていた時に着ていた服は―、残念ながら血で酷く汚れてしまっていたので、処分してしまったの。その時に着ていたものと似た感じのものを用意したのだけど…気に入らなかったかしら?」
「いえ…。そうではなくて。…なんか、ドレスに違和感がある…のかな?思い出せないのだけど、昔のぼくは…ドレスを着ていなかった…そんな気がする」
ユリウスのそんな突飛とも言える発言にもヴェーラは真摯に耳を傾ける。
「そうなの?…じゃあ、どんな服装をしていたのかしら?」
ヴェーラの質問に、ユリウスは暫し何かを思い出そうとするように眉間に皺を寄せ、ややあってから、ヴェーラの後ろに控えていた、男装の女性警護を指さした。
「…あんな感じ」
「あんなって…。リューバのような服装のこと?…あなた男装していたの?」
少し驚いたようにヴェーラが再度尋ねる。
その問いにユリウスが首を縦に振った。
「分かったわ。用意させるから少し時間を頂けるかしら?…リューバ、悪いけどこの子に合いそうなサイズで、あなたが昔着ていた洋服はまだ残っていて?」
黒くまっすぐな髪を肩上で切り揃え櫛目を入れて撫で付け、男装姿のリューバと呼ばれた女警護は、不意に主に話を振られ、ほんの一瞬驚いたように僅かに形の良い眉を上げた。
「家にあると思いますが」
「ではこの子のために、至急ブラウスとズボンを持ってきてあげて貰えないかしら?」
「分かりました。では」
その女警護は一礼すると、いかにも武人らしい身のこなしで、部屋を出て行った。
「彼女はね、リューバと言って、私の警護役の女性なの。エキゾチックな顔立ちのかっこいい女性でしょう?彼女の家はね、満州族で、元々はウスリー川流域の一帯を支配していた族長の家だったのだけど、200年程前にうちの先祖の配下となってロシアへ帰化したの。勇猛果敢な一族でね、その武功によって爵位も与えられているわ。彼女も優れた武人の血を受け継いで、武術の使い手で馬上射撃の達人でもあるのよ」
そうこうしているうちにリューバが洋服の一揃えを手に戻って来た。
早速渡された、ボウタイのついたシルクのブラウスと黒いズボンに着替える。
貴族の子女が身につけていたものなだけあって、ブラウスもパンツも、生地・仕立て共に最上級で、サイズもユリウスにぴったりだった。
「どう?イゾルデ。着心地は」
「ありがとう。やっぱりこの格好の方がしっくりきます。それからリューバも…、こんな上等な服をどうもありがとう。とても着心地がよいです」
ユリウスが満足げに微笑んでヴェーラとリューバに礼を述べる。
思いがけずユリウスから感謝の言葉を掛けられたリューバは、
「いえ…気に入って頂けたのならよかったです。また着替えも持ってきましょう」
と、そのポーカーフェイスをほんの僅かだけ綻ばせた。
依然として記憶は戻らないままではあるが外傷はだいぶ癒え、室内や棟内を歩き回れるようになったユリウスに、ヴェーラが「いつまでも夜着のままでいるのは良くないわね」と着替えを持ってきてくれた。
そのドレスを手に取り、ユリウスはしげしげと、まるで不思議なものでも見るかのように眺める。
「あなたが運ばれていた時に着ていた服は―、残念ながら血で酷く汚れてしまっていたので、処分してしまったの。その時に着ていたものと似た感じのものを用意したのだけど…気に入らなかったかしら?」
「いえ…。そうではなくて。…なんか、ドレスに違和感がある…のかな?思い出せないのだけど、昔のぼくは…ドレスを着ていなかった…そんな気がする」
ユリウスのそんな突飛とも言える発言にもヴェーラは真摯に耳を傾ける。
「そうなの?…じゃあ、どんな服装をしていたのかしら?」
ヴェーラの質問に、ユリウスは暫し何かを思い出そうとするように眉間に皺を寄せ、ややあってから、ヴェーラの後ろに控えていた、男装の女性警護を指さした。
「…あんな感じ」
「あんなって…。リューバのような服装のこと?…あなた男装していたの?」
少し驚いたようにヴェーラが再度尋ねる。
その問いにユリウスが首を縦に振った。
「分かったわ。用意させるから少し時間を頂けるかしら?…リューバ、悪いけどこの子に合いそうなサイズで、あなたが昔着ていた洋服はまだ残っていて?」
黒くまっすぐな髪を肩上で切り揃え櫛目を入れて撫で付け、男装姿のリューバと呼ばれた女警護は、不意に主に話を振られ、ほんの一瞬驚いたように僅かに形の良い眉を上げた。
「家にあると思いますが」
「ではこの子のために、至急ブラウスとズボンを持ってきてあげて貰えないかしら?」
「分かりました。では」
その女警護は一礼すると、いかにも武人らしい身のこなしで、部屋を出て行った。
「彼女はね、リューバと言って、私の警護役の女性なの。エキゾチックな顔立ちのかっこいい女性でしょう?彼女の家はね、満州族で、元々はウスリー川流域の一帯を支配していた族長の家だったのだけど、200年程前にうちの先祖の配下となってロシアへ帰化したの。勇猛果敢な一族でね、その武功によって爵位も与えられているわ。彼女も優れた武人の血を受け継いで、武術の使い手で馬上射撃の達人でもあるのよ」
そうこうしているうちにリューバが洋服の一揃えを手に戻って来た。
早速渡された、ボウタイのついたシルクのブラウスと黒いズボンに着替える。
貴族の子女が身につけていたものなだけあって、ブラウスもパンツも、生地・仕立て共に最上級で、サイズもユリウスにぴったりだった。
「どう?イゾルデ。着心地は」
「ありがとう。やっぱりこの格好の方がしっくりきます。それからリューバも…、こんな上等な服をどうもありがとう。とても着心地がよいです」
ユリウスが満足げに微笑んでヴェーラとリューバに礼を述べる。
思いがけずユリウスから感謝の言葉を掛けられたリューバは、
「いえ…気に入って頂けたのならよかったです。また着替えも持ってきましょう」
と、そのポーカーフェイスをほんの僅かだけ綻ばせた。
作品名:27 男装の美少女 作家名:orangelatte