27 男装の美少女
「これは―、どういう趣向だ?」
その日の晩、離れに現れたレオニードは、男装姿のユリウスを見て少し驚いたような顔をした。
「お帰りなさい。レオニード」
男装姿のユリウスがレオニードに駆け寄る。
「レオニードが用意してくれたドレスも気に入っているよ!…でも、自分でもよく分からないのだけど…ドレスよりもこの格好の方が何故だか自然な気がして…。リューバにお下がりを持ってきてもらったの。…おかしい?」
ユリウスが窺うようにレオニードを見上げる。
「おかしくはないが…。ただ、男には見えぬな」
レオニードは男装姿のユリウスの身体を優しく引き寄せ、ふわりと抱きしめた。
― オトコニハ、ミエナイナ
レオニードの逞しい体躯に包まれたユリウスの脳裏の奥底で、その言葉に触発されるようにチカっと記憶の断片が点滅する。
あれは―、どこなのだろう?
講堂?それとも教室?
同年代の揃いのブレザー姿の少年たちが集っている。何かの事でえらく盛り上がっており、その中心にどうやら自分がいるようである。
「男にしとくのはもったいない」
そう囃された自分がそれに酷く腹を立て―、衝動的にナイフで髪を切り落とした。
髪と手が鮮明に記憶しているその時の感触!
「イゾルデ?」
レオニードの腕の中で、どこか心ここにあらずといった風のユリウスにレオニードが呼びかける。
「…以前にも…同じような事を言われた気がして…その時ぼくは…」
「その時ぼくは?」
レオニードが先を促す。
「それに酷く腹を立てて…、手にしたナイフで…」
「ナイフで?」
「髪を…切り落とした…」
― その時の詳しい状況は思い出せないのだけど、ナイフを通して伝わる切られた髪の感触を…無防備に軽くなった頭の感覚を…今思い出した。
微かに甦ったその時の様子を途切れ途切れに語ったユリウスは、レオニードの胸に頬を
すり寄せた。
「そうか…。それは、周りの人間もさぞ驚いだろう…。でも―、長い方がいい」
レオニードはユリウスの背中を豊かに覆う長い金の髪を指に絡ませ、優しく梳いてやる。
長い指に絡められた金の髪がシャンデリアの淡い光を反射し、輝きを増す。
―ノビルノヲ タノシミニシテタンダゾ…
日だまりを想わせる温かな低い声と自分の頭をクシャクシャと乱暴に撫でる大きな手。
埋もれた記憶の断層の中から不意に現れた、もう一つの記憶。
― あなたは、誰?
レオニードの腕の中で髪を撫でられながら、ユリウスは未だ混濁した記憶の対岸のその声と手の持ち主に心の中で問いかけた。
作品名:27 男装の美少女 作家名:orangelatte