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28 ロストフスキーの懊悩

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ロストフスキーは離れの棟の入り口で主を待っていた。
先日の大きな市街戦で重傷を負った金髪の娘―、アレクセイ・ミハイロフの妻がその棟に保護され早二週間。
主レオニード・ユスーポフは怪我の後遺症で記憶障害を起こしたその娘を離れで手厚く看護し保護していたのだった。
もう外傷はだいぶ癒えてきて、ベッドから出ることも出来るようになっているようだが、記憶は相変わらず戻らないようである。
時折開け放した窓辺に佇み、眩い金の髪を風に遊ばせているその娘の焦燥感の漂う憂い顔を幾度か見かけた。

― ああ、侯…。

そしてそんな娘をまるで掌中の珠でも愛でるかのように、あらん限りの愛情を注いでいるレオニード・ユスーポフ侯爵。
幼少のころから傍に付き従って来たロストフスキーだったが、彼女だけに見せるレオニードの今まで誰にも見せたことのなかった一面は―、ロストフスキーを酷く困惑させた。

自分の名前も一切分からなくなっている娘を「イゾルデ」と呼び、身体を気遣いながらその細い身体を抱き寄せる仕草。彼女を見つめる優しい眼差し。

多忙を極める任務の間を縫ってまめに屋敷に戻り、出来得る限り彼女の傍について支えているレオニードの様子は、正妻のアデールにもついぞ見せたことのない愛情に満ち溢れている。

今は「イゾルデ」と呼ばれているその娘も、自分の事が分からない不安となかなか記憶が戻らない焦燥感をレオニードに支えられることによって何とか耐えているという感じである。

― あの方が…、刑場であの娘に一目で強く惹かれたのは…分かっていた。だけど…あぁ!

このままあの娘は記憶を取り戻すことなく、この離れの館の主となるのだろうか?
侯は今後の事をどうお考えになられているのだろうか?
アデール夫人の事は?
そして―、私は!

― あぁ、侯!