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29 とある噂

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確証も根拠もないので、支部の連中には「情報はない」 とは答えたが、今日ミハイルが上司の憲兵隊長から耳にした一つの噂話が改めて彼の中で棘のような違和感を放つ。

それは―、「氷の刃」と異名をとる陸軍親衛隊隊長、レオニード・ユスーポフ侯爵が囲い始めた愛人の噂だった。

―パーヴェル。お前信じられるか?あの堅物が―、事もあろうに屋敷の離れで最近愛人を囲い出したらしいんだ。皇帝陛下の姪御殿のアデール姫を正妻に迎えながら…妻妾同居とは…大した度胸だ!

その直属の上司の下司野郎は耳にしたばかりのホットな噂話を誰かに話したくて仕方がなかったらしい。屋敷に任務の報告に来たミハイルに、いかにも楽しそうにその噂の一部始終を披露した。

―その愛人がユスーポフ邸に囲われ出したのは、つい最近―ここ一か月ばかりの話で、どうやらアデール夫人が取り巻き連中と旅行に出ている間だったらしくてな。アデール夫人が旅行から戻ってきて、いつものように自分のサロンに仲間を呼び寄せて楽しくやってたところに、そのうちの一人のアブラモフ男爵が傍に侍らせてた踊り子といい感じに盛り上がって…サロンを蓄電して、普段は人気のない裏庭の四阿で事に及ぼうとしたときに、普段は締め切られていた離れの建物の窓が開いて、長い金髪の齢の頃…17~8ぐらいのそれは綺麗な少女が姿を現したらしいんだ。宮廷でもついぞ見覚えのない顔だが、着ているものから使用人とも思えず、二人がじっとその少女を四阿から見ていたら、お前!なんとその窓辺にユスーポフ侯爵が現れて、娘の肩を優し気に抱きながら何やら親し気に語らってたそうだぞ。あの笑顔などと無縁の堅物がそれは優しい顔をしていたそうだ。暫くして二人は窓を閉めて奥へ引っ込んでしまったらしいんだがな。それで、宮廷は大騒ぎだ。

何が面白いんだか、その下司野郎は頬を紅潮させて唾を飛ばしながらその噂話を喜々としてミハイルに語って聞かせる。

「…その娘は、大方、ユスーポフ家の縁者かなんかではないんですか?」

「バカ言え!ユスーポフ家の縁のものだったら宮廷の人間が知らないわけがないだろう?!」

「…それも、そうですね」

「それはそれは綺麗な金髪の美しい娘だったようだ。あの堅物もやるもんだな」

一人噂話に盛り上がり上機嫌な上司の前を退いたミハイルの頭の中に、今しがた聞いたそのユスーポフ候の愛人の風体が妙に引っかかる。

― 金髪…17~8歳の美少女…。一か月ほど前…。

その外見の特徴と囲われ始めた時期は―、ユリアのものと、そして彼女が姿を消した時期と不思議と一致していた。

― でも…まさかな。ユスーポフ候はユリアの宿敵…。

あの日の刑場で宿敵のユスーポフ候を燃えるような目で睨みつけたユリアの姿がよみがえる。

― でも、人の心に…「まさか」は…つきものだ。一応…探ってみるか。

ミハイルはユスーポフ家に潜入する算段を頭の中でつけながら、上司の屋敷を後にのだった。

作品名:29 とある噂 作家名:orangelatte