29 とある噂
―どうやら、まだユリアは見つかっていないらしい。
酒場の同志たちの話から、ミハイルは自分の頭に浮かぶ仮説の可能性が依然0ではないことを確認した。
「じゃ、俺帰るわ。またなんか情報が入ったら知らせるから」
ミハイルが席を立つ。
「おう。そうか。よろしくな」
「なんか…済まないな。俺が職を紹介したのにこんなことになっちまって…」
「そんな事気にすんなよ。よく働くいい子だったよ」
「何よ!勝手に過去形にしないでよ!!」
同志の一人が涙にくれる。
「あ~!泣くなよ、ブーニン。…じゃな、ミハイル。頼んだぜ」
「ああ。お前らも飲みすぎんなよ」
ミハイルは同志たちを残して一人酒場を去った。
戻った塒のアパートでウォッカを飲み直しながら、一人冷静に情報を組み立て直す。
―さて…どうやって潜伏して、だれから情報を聞き出すか…。
ウォッカのグラスを舐めながら心の中でミハイルがひとりごちた。
作品名:29 とある噂 作家名:orangelatte