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30 潜入

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ミハイル・カルナコフは敵対する皇帝の忠臣にして名門中の名門貴族、ユスーポフ侯爵の屋敷の前に来ていた。

氷の刃の異名を持ち、ツァールスコエセーロにこの人有りと謳われる、ロシア陸軍きっての切れ者の懐へ、たかが娘一人の消息を探りに決死の潜入をするなど、我ながらどうかしてる…とミハイルは思った。

― どうかしてるどころか…気違い沙汰に等しいぜ…。ったくよ!

心の中で自嘲しながらもミハイルはやはりその噂の真相を突き止めずにはいられなかった。
それは志を分けあった友人の為でもあったが、何よりもミハイル自身があの勝気だが健気な友人の妻とその愛児の事が好きになっていたからー、とどのつまり、あの支部の連中と同じで、自分自身がユリアの身を案じていたからに他ならないのだった。

― えぇーい!こうなりゃ当たって砕けろだ!

自分に喝を入れると、ミハイルは念のために更に付け髭とメガネをつけ、虎の穴へと足を踏み入れた。

ー 確か噂では…、裏庭に面した離れの棟と言っていたな。あ、あれか?

ミハイルが屋敷の裏庭に回る。
途中何人かの使用人や屋敷を警護しているユスーポフ侯の配下らしき軍人とすれ違ったが、憲兵隊の制服を着たミハイルの事を、大方任務で訪れているのだろうと思ったのか、特段咎めたてられず、目的地に辿り着いた。

離れの建物の正面ドアに鍵はかけられていなかった。

― 鍵がかけられていない…という事は…、監禁されているわけではないという事か…。という事は…、やはりユリアではない?

そのままミハイルはそっと建物内へ潜入する。

建物の内部は離れとは言え、大貴族の邸内らしくそれなりの調度が設えられていた。

― 小娘一人囲うのに大した屋敷だぜ…。巷では家もなく間もなく凍死者がゴロゴロ出るってのによ…。

誰に向けるともない不満を心の中で毒づきながら、ミハイルは廊下を行く。
噂によるとその少女を目撃したのは、裏庭の四阿からだったという。

とすると、その娘の居室は、この廊下沿いの部屋の何れか…。

ミハイルはゴクリと唾を飲み込むと、手前の部屋からドアをノックしていく。

一番手前の部屋はノックに反応がなく、ドアノブを回してみると、鍵がかけられていた。

― ここは無人のようだな。

一息ついて、ミハイルは一つ奥の部屋の扉を叩く。

ややあって

「どうぞ」

という、澄んだソプラノの声で返事があった。

― ユリア!

その声は、紛れも無いユリアの声だった。

「ユリア!」

部屋に入りドアを後ろ手に閉めると、ミハイルはその部屋の主ー、金髪碧眼の男装の美少女にそう呼びかけた。

だが、そのユリアと同じ声、同じ顔をしたその目の前の少女は、まるで自分の事など知らないというような顔で目の前の闖入者を見つめている。

「ユリア、俺だよ!分からないか?」

ミハイルはかけていた伊達眼鏡を外してみせる。

「…あなたは、どなたですか?ぼくを知っているの?ぼくは…一体…」

目の前の男装の少女が、震える声で逆に尋ねてくる。

「誰って…お前…」

一体どうなってるのか、この目の前の少女はユリアじゃないのか? ミハイルの頭の中も混乱を起こす。

一体どこから切り込んでよいやらミハイルも次の言葉を出しあぐねていたその時―。

「貴様!何をしている‼︎」

背後から鋭いアルトの声がした。

振り返ると、長身のアジア系の男装の女がミハイルに向けてピストルを構えていた。

― ヤベエ!

その女は全身から殺気を漂わせ、一分の隙も見せずに銃の照準をミハイルの顔面に合わせている。

ロックオンされたミハイルの背中からヒヤリとした汗が流れる。

「申し訳ありません!自分は陸軍憲兵隊所属のニコライ・ツィムリンスキー大尉であります。急ぎの使いを頼まれ、ユスーポフ邸を訪ねた次第でありますが…なにぶん田舎者なもので、こんな大きな屋敷は初めてでして…。迷ってこちらの棟に入り込んでしまった次第でごぜえます!…撃たないで下せえよう」

ミハイルは両手を挙げ、わざとらしく田舎訛りを交えて目の前の殺気を全開にしている女に命乞いをしてみせる。

そんな二人の様子をオロオロと男装の美少女が交互に見ている。

一触即発の緊張感が室内を支配する。

やがて銃を構えた女警護の方が、その緊張を破った。

「フン。田舎者が…。とっととこの棟を出て行け!おい!誰か!この訪問者を外までご案内しろ!」

銃を構えたまま女が鋭い声で外に向かって叫ぶ。

「あい〜」

間の抜けた返事と共に下女が前掛けで手を拭き拭きやって来た。

その女に向かって、女性警護が顎先でミハイルを指し示す。

「旦那様〜、出口はこちらでございます〜」

その下女の後について部屋を出るとき、ミハイルはもう一度だけ少女の方を振り返った。

そのユリアに生き写しの少女は、今しがた起こった一連の出来事に、やや青ざめた顔で、表情は強張っていたが、やはりミハイルの事を知人として認識していないことは、表情から明らかだった。

ただ、不思議と最後に振り向いた時に見たその少女の顔には、驚きと恐怖の他に、何か複雑な、そう、強いて言うならば微かな焦燥感のようなものが見て取れたのは、果たして危険を冒してまで虎穴に入った自分の希望的観測だったのだろうか―。

ミハイルも又、不首尾には終わったものの、どこか腑に落ちない思いを抱えながら、なんとかその死地を脱した。

― 結局、あの娘はシロだったのか…。

その夜塒でウォッカを傾けながら今日の出来事を整理する。

ユリアに瓜二つの少女。
だが自分の事を知人と認識していない事実。

何故だ?

あり得ないとは思うが、あの娘がスパイだった可能性は⁈

スパイだった娘がドイツ留学中のアレクセイに巧妙に近づいた―。

いや、あり得ない!
ならばわざわざ足手まといになる子供まで産み育てるとは、考え難い。

ならばやはり他人の空似か⁉︎

でも、果たして双子でもないのにあんなにも背格好も、そして声までも生き写しの人間が存在するものか⁈

考えろ!
演技でもなく他人でもないとしたら、今日のユリアのあの反応の理由は一体…何だ⁈

ミハイルが紙と鉛筆を取り出し個々のバラバラのパズルのピースを時系列順に書き出して行く。

ユリアが姿を消したのが丁度今から一ヶ月前。

その日に起きた暴動に巻き込まれた可能性が高い というのが大方の見解だが、一方で死体安置所にも病院にもそれらしい人物は見つかっていない。

それからあの宮廷の噂だ。
ユスーポフ侯が離れに愛人を囲い始めたのも、同時期の一ヶ月程前。

あの少女が姿を現した時とユリアが姿を消した時期は一致している。

あの二人の間を埋めるー、ミッシングリングが…何かあるはずだ。

あの二人の間に共通点は?

姿形が似ているということ以外だ。

共通の癖は?

…ダメだ。そもそも癖まで把握している程ユリアを知っているわけでもないし、あのユスーポフ邸の女にしても殆ど接触らしき接触も出来なかった。

共通の知人は…どうだ?

あの女の知人は…俺が知る限りユスーポフ侯とあの屋敷の人間。

一方ユリアは…。

― あ‼︎

二人を結ぶ共通の人物ー。
作品名:30 潜入 作家名:orangelatte