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31 寵姫

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― ユリア!

香油を落としたバスタブに白い身体を沈めてユリウスは今日の出来事に思いを巡らす。

自分の事をユリアと呼んだあの男。

自分の事を知っている人間なのだろうか⁈
いつまでも戻って来ない自分を、命懸けで迎えに来てくれたのかもしれない。

…あれからあの人は、無事屋敷を出られだろうか…?

アナタハ、ダレ?
ジブンハ、ダレ?

湯船に広がる波紋のように、ユリウスの心にも波紋が広がって行く。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

なかなか湯船から出て来ないユリウスに、外から女中に声をかけられ、ハッとユリウスが我にかえる。

「あ、はい!ごめんなさい。今上がります」

ユリウスはバスタブから出ると、大きなリネンで身体を包み込む。

長いことお湯につかっていた身体は上気してバラ色を帯び、全身から香油の香りが仄かに立ち昇る。

水気を含んだ長い金髪はより艶と輝きを増している。

リネンを取り去り、一糸纏わぬ自分の姿を姿見に映す。

一ヶ月前に負った全身の小さな傷はもう殆ど癒えてなくなっている。

右上腕の小さな、しかし白い腕を穿つようにつけられた銃創に目を落とす。
自分が自分でいた時にはなかったこの傷。
ため息交じりにユリウスはその銃創に指を滑らせた。

作品名:31 寵姫 作家名:orangelatte