永遠にともに 1
「あのぉ…俺たち席を外した方が良いですか?」
その存在を思い出し、アムロが顔を真っ赤にしてシャアの後ろに隠れる。
「す、すみません!!忘れて下さい!!!」
「とりあえず自分たちはこれで失礼します!」
2人は急いで部屋を後にした。
「わぁぁ!!どうしよう!恥ずかしい!」
床にうずくまりながら叫ぶアムロにシャアは抑えられずくくくっと笑いだす。
「シャア!!笑い事じゃない!!僕たちの事2人にバレちゃったかもしれないだろ!!明日からどんな顔して会えばいいんだよ!」
既に2人とも知っていると思うが…とは言えず更に笑いがこみ上げる。
「もう!!シャアのバカ!僕、帰る!!」
部屋を出て行こうとするアムロの腕をシャアが掴む。
「今日はもう遅い。ここに泊まっていけばいい。」
「ここって、ベッド一つしか無いじゃないか!僕に床で寝ろって言うのか!?」
叫ぶアムロの腕を引いてベッドへと座らせると耳元で囁く。
「一緒に寝ればいいだろう?」
その言葉にシャアの意図を感じ取るとアムロの顔が真っ赤に染まる。
「えっ?シャ…」
アムロが言葉を言い終える前にその口が塞がれた。
「んんっ」
シャアはそのままアムロを押し倒すと更に口付けを深めていった。
シャアの私室を後にしたアンディとリカルドはシャアの部屋に視線を向けるとアムロに対して同情の視線を向ける。
「あいつもエライ人に捕まっちまったなぁ。もしかしてハマーン様とは恋敵ってやつか?苦労しそうだなぁ。」
「とりあえず、明日は何も無かった事にしていつも通り接してやろうぜ。」
リカルドはアンディの肩を叩くと「飲むか!」と歩き出した。
翌日、目を真っ赤に腫らし、ぐったりと疲れ切った様子のアムロにアンディとリカルドが固まる。
「すみません。体調が悪いので今日のシミュレータ訓練はお休みしても良いですか…」
アムロとは正反対にスッキリとした顔のシャアが「すまんな」と言うと、フラつくアムロを支えながら屋敷へと帰って行った。
「モビルスーツを降りてしまえば白い悪魔も赤い彗星には敵わないって事か?しかし、あんな小柄な子が大佐のを受け入れられるのかねぇ?」
下世話な心配をするリカルドの頭を殴るとアンディはアムロの後ろ姿を見つめ大きな溜め息を吐く。
『大佐…程々に…』
その後、シャアとアムロ、ハマーン達数名がサイド3への視察に出ている間に、アクシズ内ではマハラジャ・カーンの穏健派に反感を持つエンツォ大佐率いる強硬派による反乱が勃発。急ぎ帰路についたシャア達によりなんとか鎮圧したものの、マハラジャ・カーンの死去が重なりアクシズ内は混乱に陥ってしまった。
その混乱を鎮める為、マハラジャ・カーンの後継としてハマーン・カーンが摂政に就任。ザビ家の再興とジオン公国の独立を宣言した。
「シャア…。貴方…これからどうするの?」
シーツの中でシャアに背後から抱きしめられたままアムロが呟く。
「昨日、サイド3で会ったカジムがジョルジョ・ミゲルの伝言を伝えに私の元にやって来た。」
「ジョルジョ・ミゲル?連邦に潜入しているあの人?」
「そうだ。今、地球圏では反連邦の動きが活発化している。連邦内の重鎮もその活動に参加しているそうだ。」
「反連邦組織を結成するの?」
アムロはシャアの方に振り向くとそのスカイブルーの瞳を見つめる。
「ああ…そうらしい。そして、その代表者から私に連邦へ潜入し活動に参加する様打診があった。」
「連邦に…」
シャアはアムロの頬に手を添えるとそっと口付ける。
「もし、連邦に行く事になったら君は…付いて来てくれるか?」
アムロは不安気な声で話すシャアの頬に手を添えるとそっと微笑む。
「僕は貴方の側にいるって決めたから…。どこにだって付いて行くよ。」
「アムロ…!」
シャアはアムロを胸に抱きしめ、その柔らかい髪にキスをした。
「でも…、ハマーン様はどうするの?側で支えると言ったんでしょう?」
「ああ…、しかし…。」
シャアの迷いを感じてアムロはシャアの身体を抱き締める。
「…前に…マハラジャ様と話をしたんだ。」
「マハラジャと!?」
シャアは驚いてアムロを見つめる。
「シミュレーションルームで貴方を待っていた時、マハラジャ様が僕に会いに来たんです。あの人は貴方がキャスバル・レム・ダイクンだと言うことも、僕がアムロ・レイだと言うことも知っていました。」
「君の事も!?」
自分の事を勘付いている事は知っていたがまさかアムロの事までも知っているとは思わなかった。
「ええ、アーネストさんが僕を運んだ小型艇を貴方が処分した時の情報があの人の元に入っていたそうです。おそらくこのアクシズ内であの人の知らない事など無い。強力なネットワークを内部に持っていて、アクシズを完全に掌握していたんです。」
「マハラジャ・カーン…。さすがだな。それで、そのマハラジャが君に何を?」
「あの人は無血によるジオン公国独立を望んでいました。しかしそれは現段階ではほぼ不可能だと言う事も分かっていた。そして、戦闘による独立もサイド3のジオン残党軍とアクシズの全軍をもってしても不可能だと言う事も分かっていました。」
「そうだな。だから彼は沈黙を通した。」
「けれど、貴方が…ジオンの後継者である貴方が現れた。あの人は貴方ならばジオンの独立を…いや、ジオンのみならずスペースノイドの独立も成し得ることが出来ると思ったんです。」
あの日、マハラジャ・カーンはアムロに語った。
『私の亡き後、シャア・アズナブルが後継者となればアクシズは安泰だろう…。しかし、地球圏を遠く離れたここにいてはスペースノイドの独立を叶える事は出来ない。人にはそれぞれ成すべきことが決められている、私にはアクシズの提督としての役割。ハマーンには私の後を継ぎアクシズを治める役割。シャア・アズナブルにはスペースノイドの独立を成し遂げる役割…』
マハラジャはアムロを見つめその肩に手を置く。
『そして、アムロ・レイ。君にはシャア・アズナブルを正しい道に導き、支える役割が与えられている。皆がそれぞれの役割を果たしてこそ未来を切り開く事が出来るのだ。』
呆然と見つめるアムロにマハラジャは続ける。
『時が来たらここを出て己の役割を果たして欲しい。君の力はその為のものだ。その力の全てをもってシャア・アズナブルを導いてくれ』
「マハラジャ・カーンは先を既に見据えていたのだな。ならば私は私の成すべき事をせねばならんな。」
シャアは決意を固める。その為にハマーンを見捨てる事になるとしても…。
ハマーンはまだ不安定で誰かの…シャアの支えを必要としている…。しかし時は待ってはくれない。時代は既に動き始めてしまった。
「僕は貴方と共に行くよ。この先ずっと貴方と生きて行く。永遠に貴方の側にいると誓うよ。」
アムロはシャアの頬を両手で包むと、縋る様にシャアの唇に己のそれを合わせた。
続く