永遠にともに 1
アンディが泣きそうな声でガックリと肩を落とす。
ラスト一機の動きにアムロは違和感を覚える。
『こいつだけ動きが全然違う。それにこの感じどこかで…』
アムロは様子を見ながらその動きを見つめる。
そしてライフルを構えると引き金を引く。
するとその機体はアムロが引き金を引くと同時に攻撃を回避し旋回する。
『やっぱり僕が撃つ前に回避行動を取っている。それなら。』
アムロは急降下をすると後ろに回り込み体当たりを仕掛ける。
「キャァ!」
その衝撃にリックドムのパイロットの悲鳴が接触通信で聞こえる。
「え!?この声、ハマーン様!?」
「やっぱり、アランね!!シャア大佐が立ち会うって聞いてもしやと思って代わってもらったの!」
「“代わってもらったの”って!良いんですか!?」
そこにシャアから通信が入る。
「アラン。私が許可する。模擬戦を続けろ!それから手加減は不要だ。」
「シャア!?え!?手加減不要って本当に?」
「ああ、知っていると思うがハマーンはニュータイプだ。ニュータイプ同士の戦いを教えてやれ」
「はぁ…、それじゃあハマーン様。すみませんが本気で行きます。」
そう言うとアムロはさっきまでのゆっくりした動きとは違う速い動きでハマーンを撹乱する。
そして、一瞬の隙をつきビームを発射する。
“当たる”と思った瞬間、ハマーンのリックドムはビームを回避しアムロのザクへとサーベルで斬りかかる。
「ちっ!やっぱりダメか」
アムロはサーベルでその攻撃を防ぐと一気に急降下し背後からリックドムへビームを発射し足に被弾させる。
「え!被弾!?どこから?」
ハマーンが動揺して周りを見渡す。しかしアムロのザクが視界に無い。
そしてまたあらぬ方向からブームが来る。
必死に避けるが左腕に被弾する。
ハマーンは動揺を隠せずビームを乱射するが全く当たらない。
「どこだ!!」
すると通信回線が開きアムロから通信が入る。
「ハマーン様、視界だけに頼ってはダメです。心の目を開いて後ろにも目をつけて下さい。」
「心の目?」
「そうです。前に教えたでしょう?先ずは目を閉じて扉を一つ開いて下さい。そして戦闘空域全体に心の目を広げるんです。」
「扉を開く…」
ハマーンは目を閉じると扉をイメージしてその扉を開く。するとスゥッと視界が広がり周りが見渡せる。
「あ…、見える!」
「それじゃあ、僕が何処にいるかわかりますか?」
ハマーンは目を閉じると意識を集中させる。
すると後方にアムロの気配を感じる。
「右後方隕石の影!」
「正解です!流石ですね。」
「やった!」
「そうやって視界を広げて戦況を把握して下さい。力が足りないと思ったらもう一つ扉を開きます。前にも言いましたが一つずつです。忘れないで」
「わかったわ!」
「ただ、意識を広げすぎてはいけません。全てを把握しようとすると自分がパンクしてしまうので、自分に向かって来る殺気を特に意識して不必要な情報は排除して下さい。」
「…難しいわ!情報を選び取るなんて」
「でも、さっき僕の攻撃を躱したでしょう?無意識に殺気を察知してはいます。だからあとは経験です。」
「そうなの?」
「はい」
ハマーンの意識にアムロが笑顔で微笑むのが見える。
「アランは優しいのね。今、アランの笑顔が見えたわ。」
アムロは少し驚くと「そうですか…。」と笑う。
「それでは、そろそろ時間なので終わりにしましょう。行きますよ!」
「え!?」
ハマーンが振り向くと同時に3発被弾する。
『003号機 戦闘不能』
模擬戦終了の通信が入る。
「えええ!気配は追えてもアランの攻撃が早すぎてついていけないわ!」
悔しがるハマーンにアムロが笑う。
「慣れですよ。ハマーン様はセンスがあるので直ぐに上達します。さあ、帰りましょう」
二機は教官達の待つ場所へと向かって飛び立った。
モビルスーツデッキへ訓練生達のリックドムが戻り、最後にアムロのザクが降り立つ。
アンディ、リカルド、シャアの前に訓練生達が整列している所にアムロがふわりと降り立つ。
訓練生達はその小柄な体格に驚きつつその姿に見入る。
そしてシャアの隣に立ったアムロがヘルメットを外すと皆が騒めく。
「子供!?」
その言葉にアムロがムッとするとシャアがクスリと笑い、アムロの肩を叩く。
「静かに!!今日の模擬戦の結果を発表する!
001号機 1分003秒、被弾数3、002号機…」
アンディが結果を言うが、皆それよりもアムロに気が向いてまともに聞いていない。
「以上!質問は?」
アンディの問いに1人の訓練生が手を挙げる。
「ミハエル!」
「はい!教官!今日のパイロットは彼なんでしょうか?」
ミハエルがアムロを見つめて言う。
アンディがどう答えようかとシャアに視線を送ると、シャアはやれやれと言った顔をして質問に答える。
「そうだ。ここにいるアラン・マスが今日のパイロットだ。彼は以前に私と共に実戦を経験経験している。まだ若いが実力は見ての通りだ。君たちも日々の訓練を怠る事なく努めて欲しい!」
訓練生達は姿勢を正すとシャアとアムロに向かって敬礼をする。
横でアムロが『“共に実戦を経験”って敵としてだろ!』と思いながらシャアと共に敬礼を返す。そして、ふとハマーンの視線を感じる。
『ハマーン・カーン…。強いニュータイプ能力を持っているけど彼女は何処か不安定だ。』
アムロは不安を抱えつつその場を後にした。
訓練後のミーティングの為、基地内シャアの私室に4人は集まる。
「大佐、アラン。今日はありがとうございました。」
アンディが礼を述べる。
「いや、私も面白いものが見れたし、ハマーンの勉強にもなったしな。アムロのおかげだ。」
「いえ…。あんな感じで良かったんですか?」
「バッチリだよ!!奴らのつまらんプライドはバッキバキに折れただろうからな。明日からは気合い入れて訓練に参加するだろう!」
リカルドが鼻息を荒らして言う。
「なら良かったですが…。」
アムロが少し考えながら答える。
「ハマーンの事が気になるか?」
シャアの問いにアムロが頷く。
「ハマーン様はまだ不安定で…。僕は貴方に追い詰められて戦場で覚醒したせいか、主に戦いでニュータイプ能力を発揮するタイプなんですがハマーン様は常に能力を解放している状態なんです。前に会った時に少し制御を教えたので今は全開では無いんですがあれでは疲れてしまいます。」
「そうだな。」
「戦場でも、ニュータイプ能力に振り回されてしまって使いこなせずに自滅しています。今日、少し教えたので多少は良くなると思うんですがまだまだ不安です。いつ、何のきっかけで暴発してしまうかわからない。」
「ふむ…。経験を積むしかないか…。」
「それに…」
アムロは言い淀むとシャアを見つめる。
「彼女が貴方に好意を寄せている事には気付いているのでしょう?どうするんですか?」
アムロの辛そうな表情に、シャアがスクリーングラスを外してアムロに向き合う。
「どうするも何も私には君がいるからな。彼女の想いには答えられん。」
その答えにアムロの瞳が涙で滲む。
シャアは目尻の涙を指で拭うとそっとアムロを抱き締める。
2人の世界に浸るシャア達に居たたまれなくなったアンディが割り込む。