34 Dinner2~それぞれの想い
「・・・どお、かな?」
仕上げは手伝ってもらったものの、下ごしらえや味付けはユリアが一人でこなした今晩の夕食。準備をしながら、どういうわけか料理の手順は忘れていないことに安堵し、レオニードのために心を込めて拵えた夕餉だった。
ペリメニのスープ仕立て、サーモンのハーブ焼き、ヴィネグレットサラダ。
「美味いな。どこか懐かしいような・・・」
「ええ、この味は・・・」
「あの、おっかないリューバの祖母さんの味に似ている」
幼なじみ三人は、野菜たっぷりのスープに浮かんだペリメニを味わいながら盛んに頷きあう。
「リューバの、お祖母さん?」
ユリアが小首をかしげて話を促す。
「さっきあなたが言っっていた料理の手際は、私の祖母から叩き込まれたものでしょう。病弱な母に代わって、実質私を育ててくれた」
「愛溢れるお方だったが・・・躾には厳しかったな」
「・・・たしかに」
レオニードが懐かしむのに、ロストフスキーも相槌を打つ。
「祖母ちゃんの前では、セリョージャはいつも私とレオニードの後ろに隠れていたっけ」
「・・・今日はいやに絡んでくるな、リューバ。憶えておけよ?」
「ウフフ、仲がいいね、二人は」
ユリアはおかしそうに笑い声を漏らすと、レオニードと目が合い微笑み合う。
「一人でこのような食事の支度ができるということは、しっかりとした生活を営んでいたのであろう・・・大丈夫だ、きっとじきに記憶も戻る」
「う、ん。ありがとう、レオニード」
「・・・・・」
「・・・・・」
過去を失っている少女と、本来対立する武人達。それぞれの胸にさまざまな思いが去来する最初で最後の夕餉は、三者三様の過去、現在、未来が交錯するひとときとなったのだった。
作品名:34 Dinner2~それぞれの想い 作家名:orangelatte