37 夢のあとに
おまけ
その日の夜―。
書斎に現れたロストフスキーが、淡々と今日の任務の報告をする。
やや抑揚に乏しい淡々としたロストフスキーの声をレオニードはいつものように執務机で書き物をしながら聞く。
「…以上でございます」
「うむ。ご苦労だった」
敢えてユリアの事は語らないロストフスキーと、それに対して何も追求しないレオニード。
二人の間に暫し沈黙が流れる。
「では、失礼いたします」
先にその沈黙を破ったのはロストフスキーだった。
丁重に挨拶し、レオニードの書斎を退出しようと踵を返す。
「ロストフスキー…すまぬが…」
ロストフスキーの背中を呼び止めたレオニードの声に、ロストフスキーが立ち止まって振り向く。
「勿論―、手配してございます。今回はあの娘が好きなハチミツと今年の夏採れたスグリで作ったジャムも入れてございます。それから…クリスマスが近いので子供のためにお菓子と絵本も…」
愛しい主の言葉を優しく制して、ロストフスキーは答えた。
「ふ…。お前は本当に行き届いておる。…きっと私が手配したのではそこまで気が回らかったであろう。お前に任せて本当に…よかった。― ありがとう。セリョージャ」
その主の労いに、ロストフスキーは、時に酷薄にも見える薄い色の瞳を優しく細めて、笑顔で応えた。
作品名:37 夢のあとに 作家名:orangelatte