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38 ごめんね…

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― ムッターは、なんで迎えに来てくれないのだろう…。

ミーチャは今日も夕刻になると、いつも母親が自分を迎えに小走りでやって来た通りの前に立ち、来ぬ人の姿を待つ。
秋の終わりの北国の日没は早い。ミーチャがそうして通りに立ち母親を待っている間にも刻一刻と日は傾き、あっという間に通りは夕闇に包まれガス灯が灯る。

― 今日も来なかった…。

ミーチャは暗くなった後も尚しばらくの間閑散とした通りを眺めていたが、今日も又待ち焦がれている人が現れなかったことを悟ると、小さな肩を落としてアパートの一室へと戻って行った。


ミーチャ、ドミートリィ・ミハイロフは、母と二人家族だった。
自分が生まれて間もなく、モスクワ蜂起に敗れた父親はシベリア流刑となり、ミーチャは以来母親と二人きりで暮らしていたのだった。

自分を産んだときにはまだたったの16だったドイツ人の母親は、そのわずか三月後に夫と生き別れ、この異国の北の都に息子と共に投げ出された。
だけどこの若い母親は、可憐な風情の見た目にそぐわない気骨の持ち主だった。いや、もしかしたら齢こそ稚いが母親であるという自覚が、彼女を奮い立たせていたのかも知れない。異国の地で職を得、当初は同僚らに手痛い洗礼を受けながらも、歯を食いしばりそこに留まり、やがて彼らにも認められ、何とか母子二人でこの異国の地に生活基盤を作り上げ、彼女が地道に築き上げて来た人間関係に時に支えられながらも、何とか暮らしを立ち行かせていたのだった。

時はあっという間に流れ、彼女が右も左も分からない状態ながらも何とかペテルスブルグに根を下ろし、ミーチャが二歳を迎えた夏の終わり頃から、母親はミーチャを同志の妻に預けて仕事に専念するようになった。

最初は母親に置いて行かれる寂しさから、朝自分を預けて仕事へ向かう母親の背中を見ながらグズッていたミーチャだったが、預けられた先の女性―、リザは優しく、また彼女の子供らもミーチャの面倒をよく見てくれたので、そこで日中を過ごす事にもすぐに慣れ、やがてミーチャは朝母親を笑顔で見送れるようになり、周囲を安心させたのだった。

朝自分を預けた母親が夕刻になるとミーチャを迎えにやって来る。
ミーチャが一日で一番待ち望んだ、一番好きな時間だった。

日が西に傾き始めるとミーチャはどれだけ遊びに夢中になっていてもその手を止めて、母親が迎えにやって来る通りの前に立、一日焦がれ続けたその人を待つのだった。

― ミーチャがお母さんを出迎える…ミーチャ時計は、きっと皇帝が持っている時計よりも正確だね。
そんなミーチャを預かり先の人たちが半ば感心しながら笑った。

作品名:38 ごめんね… 作家名:orangelatte