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41 elegy

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1907年11月ー

ユスーポフ邸の離れの一室。
ユリウスは窓辺に置かれた籐椅子に腰掛け、外の景色を眺めていた。

季節は短い秋から長い冬へとまさに移ろう最中で、風に舞う木の葉に混じり、いつしか今年最初の雪が天空から舞い降りて来ていた。

そのユリウスの端正な横顔を、少し離れた場所でヴェーラが静かにスケッチブックに写し取る。

やがて、一心不乱に外を眺めていたユリウスが傍のヴェーラに気付いた。

「‼︎…ヴェーラ。いつからいたの?」

ユリウスが少し驚いたように碧の瞳を僅かに見開く。

「ちょっと前からよ。随分熱心に外を眺めていたから…声をかけそびれて。気分転換に外へ出る?私でよければオランジェリーにお供してよ?」

「ううん。いいの。ちょっと外を眺めてただけだから。雪…降って来たね」

「ええ。さ、イゾルデ。窓を閉めているとはいえ、窓辺は冷えるわ。こちらにいらっしゃい。お茶にしましょう」

窓辺を離れたユリウスはヴェーラの手にしているスケッチブックに気がついた。

「ヴェーラ、何描いていたの?」

ユリウスの質問に

「あなたよ。自分でも我ながらよく描けたな…と思っているのだけど、どうかしら?」

とスケッチブックを開いて見せる。

そこにはセピア色のパステルで美しい少女の横顔が描かれていた。

「…ぼく、こんなに綺麗じゃないよ」

スケッチブックに描かれてた、清らかで可憐な少女の横顔の美しさに、ユリウスが思わず頰を染める。

「あら、そんなこと…。私はとても良く描けたと思うのだけど。ねえ?リューバ、どう思う?」

ヴェーラが傍に控えていたリューバに意見を求めた。

「紛うことなきイゾルデです」

「ほらね?ならば、兄にも聞いてみようかしら」

我ながら良い案を思いついた とばかりにヴェーラはその理知的な面差しに少しだけいたずらっぽい表情を浮かべると、パタンとスケッチブックを閉じた。

結局、レオニードはその素描について何もユリウスに語らず、ユリウスも敢えては問わなかったので、いつしかそのヴェーラが描いた手すさびの肖像画の事はユリウスにも作者のヴェーラにも忘れ去られ、やがてユリウスは記憶を取り戻し、彼女の世界へと戻って行ったのだった。

作品名:41 elegy 作家名:orangelatte