42 僕の金髪ちゃん
「さ、かけて」
ユリアをデスクの椅子に座らせると、ブーニンは彼女の髪をブラシで丁寧に梳り始めた。
「近くで見ると…本当に綺麗な金髪ねぇ」
ブラシを滑らせる毎に、その金の髪は艶を増してゆく。
ブーニンの大きな手が実に器用に繊細にユリアの髪を掬い取りきっちりと編み込み纏めていく。
「…ありがとうございます。でも私の母親の髪は…もっときれいなんですよ。母はもっとまっすぐで、緩いウェーブが女らしくて…」
「そう…。カーリーヘアもキュートだわ。アレクセイもあなたの髪…大好きだったんじゃない?」
そう言われてユリアは少し面映ゆそうな表情で、小さくコクリと頷いた。
「あら、ごちそう様!…じゃあ尚更切ってしまうのは勿体ないわ。これからも腕が痛むときは言って。私がいつでも結ってあげるから」
― さ、出来上がり♡どう?
ブーニンがユリアに手鏡を手渡した。
「わぁ!綺麗。自分で結うより断然綺麗な仕上がり!それに、きっちり結われてるのに全然痛くない!ありがとうございます。ブーニンさん。…お上手なんですね」
「うふふ…。あのね、痛くないのはピンを挿す位置と方向にコツがあるのよ。今度教えてあげるわ。私子供の頃からお人形遊びが大好きで…さんざんお人形の髪と…姉と妹の髪を結ってきたから…髪を結うのはお手のものなのよ」
「お、は、よ~。あっら~、ユリア、ブーニンに髪結って貰ったの?この人なかなかいい腕してるでしょ?」
出勤してきたジーナがユリアとブーニンに目を止める。
「あ、ジーナさん。おはようございます。はい、自分で結うよりも断然綺麗で感激してたところです」
隣のデスクに着いたジーナに、ユリアは瞳を輝かせて嬉しそうに報告した。
「おはよう、ジーナ。ユリア」
「おはようございます」
《エカテリンブルグ通商》
実はボリシェビキの一支部であるこのオフィスに、徐々に党員が集まり、支部の一日が始まる ―。
作品名:42 僕の金髪ちゃん 作家名:orangelatte