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43 夫の盟友

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「アレクセイから君の事は聞いてはいたが…。まさかここで働いていたとは。ずっとここで働いていたの?」

「はい。主人の旧友がここを紹介してくれて。あのモスクワ蜂起の直後からだから…もう5年になります。働き始めたばかりの頃は…まだ子供が生まれたばかりで…そんな私に子連れ出勤も許してくれて。本当にここの方たちには感謝してます。ミーチャ、息子は、つい最近までこの事務所で育ったんですよ!初めてムッターと言ったのもここ。初めて歩いたのもこの事務所でした」

― 強い人だ。

碧の瞳をキラキラと輝かせて、自分の辿った5年間をズボフスキーに語って聞かせる彼女に、ズボフスキーは好感を覚えた。
アレクセイとさして歳も変わらないように見えるこの娘は、あのモスクワ蜂起の時にはまだほんの少女だった筈だ。そんな年若の、しかも周りに頼る人が誰もいない異国の地で、子供を育てながら踏みとどまり、帰って来ないかもしれない夫を待ち続けるという事は、生半可な事ではない。
しかし、その苦労をおくびにも出さず、前を向いて日々を生きている彼女に、フョードルはしなやかな強さを感じた。柳の枝が風に揺れながらも決して折れることのないような。
踏まれても青い芽を伸ばす麦のような。
たおやかな見た目の芯の決して折れる事のない彼女の強さに触れ、フョードルは改めて決意を固くするのだった。

― アレクセイ、素晴らしい奥さんじゃないか。…待ってろよ。彼女のためにも、俺が必ずお前にペテルスブルグの地を踏ませてやるからな。

「ここがズボフスキーさんのデスクです。ファイリングなども私がやっているので、必要な資料があったら言って下さいね。それから原稿の清書もタイプするので申し付けて下さい。それから新居の手配をしておきました。これはアパートの地図と鍵です。…他に何かご不明な点などあれば、いつでも声をかけて下さいね」
― 私のデスク、あそこなので。

ユリアが自分のデスクを指差した。

「一つ…お願いしたいのだけど、いいかな?」

「はい。なんでしょう?同志ズボフスキー」

ズボフスキーの言葉にユリウスが小首を傾げて、訊き返す。

「僕の事は…フョードル、と呼んでもらえないかな?」

その言葉に、ユリウスは整った顔にとびきりの笑顔を浮かべて、白い手を差し出した。

「はい。それでは…改めて初めまして。ユリア・ミハイロヴァです。宜しくお願いします。フョードル」

「こちらこそよろしく。ユリア」

差し出した握手の手を、フョードルは握り返した。

細く華奢な手にそぐわず、彼の手を握るその力は意外な程強くしっかりとしたものであった。
作品名:43 夫の盟友 作家名:orangelatte