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四畳半に、ちゃぶ台ひとつ

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さいご


 ジュウ、と、フライパンに流し込んだ卵が音を立て、カツオ出汁のにおいがサンジの鼻を柔らかくくすぐった。グリルの中のアジの干物も、腹の虫を刺激するいいにおいを漂わせている。クル、クルと卵をひっくり返して、端っこはつまみ食い。砂糖が多めの甘い味付けはサンジの好みだ。ぬか床からキュウリを1本取り出した。ぶ厚く斜めに切って、味の素と醤油を少々。鍋の中から絹さやとウインナーを湯がいたのをざるに上げて軽く水気を切り、味噌と醤油と辛子で和えてゴマを振る。残り物のレンコンのきんぴらは、においを嗅いで大丈夫そうなのでこれもつまみ食い。いい具合に味がしみている。
「おいゾロ! テメエ、そろそろ起きやがれ!」
 白いご飯を3つに分け、それぞれ、高菜のみじん切りを混ぜたやつ、昆布を中に入れたやつ、濃い目の塩で結んだだけのやつ。
 おかずはステンレスの弁当箱に詰めて、おにぎりはそれぞれラップに包み、全部まとめて小さめの風呂敷に包む。キュ、とちゃんと結び目が双葉型になるように整えて、隙間にお箸のケース。ふと思いついて、冷蔵庫にぽつんと余っていた蒟蒻畑も突っ込んだ。
「おい起きろっつってんだろ、遅刻すんぞ!」
 どれだけ叫んでも、ゾロのいびきのリズムは崩れない。しかも、大の字のままだ。
「お、き、ろ、このごく潰し!」
 思い切り身体の上に飛び乗ってやればさすがに「ううん……」とうめき声が聞こえて、サンジはにやりと悪戯っぽく笑った。
(――ジジイ、最近、俺は思います)
「起きたらご褒美があんのになあ。もったいねえなあ」
「んー……」

 ジジイ、最近、俺は思います。
 なんだかんだで俺はこの世に生まれて、今まさに生きていて、これから先もたぶん生きていて、飯を食って、夜になれば寝て、たまにキスやセックスをして、やがていつか死ぬ。きっと、そういうことに、理由なんてないんだと。生まれたこと、生き続けること、死ぬこと、食べること、寝ること、セックスすること。はじめはそのどれにも、理由なんてなかったんだ。
 俺はその理由がずっと、欲しかった。というか、今でも欲しいのかもしれない。
 それをいつかゾロがくれると思っていたし、きっと、ゾロも俺にそれを与えたくて仕方がなかったんじゃねえかと、そう思う。ああ見えて優しい奴なんだ。
 でも実は、それはどうでもいいことだ。そんなものがなくても、俺は今、生きている。
 しかも、ただ生きているだけじゃないんだぜ。
「……すげえ奮発したな」
「だろ?」
 腹の上で馬乗りになったまま、サンジはぺろりと自分の唇を舐めた。
「ご褒美の続きは、仕事から帰って来てからな」
「おう」
「ホラ、さっさと布団畳んで顔洗ってこい。もう朝飯の準備はできてんだ」
 俺はこれからも、いろいろ欲しがるかもしれない。俺が欲しがったものを、ゾロが与えてくれるかもしれないし、与えてくれないかもしれない。
 それは、実はどっちでもいい。
 そんな奴が隣にいること、それが本当は、一番大事なことなんだ。
「あ、皿はそのままでいいから、ちょっとこっち来てくれよ。……コレ、一口食って」
「ん」
「……うめえか?」
「おう」
「だろ! 弁当に入れてやるからよう、しっかり働いて来いよ!」

 ジジイ、今日の朝飯は、目玉焼きと、ハムと、わかめご飯と、切り干し大根の味噌汁です。