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45 prelude

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「ユリア、よかったらお昼を一緒にどうだい?」

フョードル・ズボフスキーに声を掛けられたユリウスは、連れだって市街の食堂へと向かう。

「俺はスープと黒パン。ユリアは?」

「紅茶を…」

「紅茶と?―まさか紅茶だけ?」

「元々食が細いので、お昼はお腹が空かないから…」

「ダメだよ!若い時にきちんと食べておかないと、齢を取ってからツケが来て身体がボロボロになるぞ?!おかみさん、この子にも同じメニューを」

―はいよ。

食堂のおかみさんがオーダーを取って、奥へと引っ込む。

「節約してるの?」

「…それもなくはないですが。でも、本当に昔からお昼は食べたり食べなかったりで…」

「それはだめだよ。ユリア。これから、リンゴでもスモモでも、黒パンでも、ゆで卵でも…なんでもいいからお昼をちゃんととるんだ。食事を…栄養をバカにしてはいけない」

そう言ってユリウスに真剣に食事の大切さを訴えるズボフスキーの榛色の瞳の優しさは…、あの邸の黒い瞳の彼の人を思い出させた。

― 彼も、ぼくに同じことを言ったっけ…。

「ふふ。フョードル、お父さんみたい」

「言ってくれるなぁ!俺はまだこんな大きな娘を持つ齢じゃないぞ?…ユリアのお父さん、どんな人だったの?」

「…父のことは…、殆ど一緒に暮らしたことなかったから良く分からない。私が知っている父はもう亡くなる間際の寝たきりの姿だったから…。優しいのかも、口うるさかったのかも…。私のことも分かっていたのだか分かっていなかったのだかも…」

どこか他人事のように遠い目をしながら自分の父を語るユリウスに、「ああ、そう言えばヤツ…アレクセイも、自分の父親の事をほとんど知らないと言っていたな」とフョードルは彼女の夫の言葉を思い出したのだった。
―彼女と奴は…育った環境も似ていたのかもしれないな。

聞けば、ドイツはバイエルンの大きな旧家の―つまり貴族の家の子女だという。
(もっとも彼女は、自分は後添いの子供だから。そんな大層なものじゃないんだ と言っていたが)

「で、今日はどうしたんですか?―私に何か頼みたい事でも?」
ユリウスが小首を傾げて笑顔でズボフスキーに尋ねた。

「え?どうして?」

「だって―。皆さんがこうやって私やジーナさんをランチに連れ出すときは…、大抵皆さん何か頼みたいことがある時だから…。例えば無理めな予算を通してほしい時とか、微妙な領収証を出すときとか…今日の夕方締め切りの原稿をこれからタイプしてもらいたい時とか…」

運ばれてきたスープをゆったりと口に運びながら、ちょっとおかしそうにユリウスが笑った。

「そうか―。はは…。君ら女性はみんなお見通しなんだね…」
―いや…まいったな。

ズボフスキーは図星を突かれて、頭を掻いた。

「何でしょう?可能な限り、お引き受けしますが?」

「いやね…。実は仕事の事じゃなくて…」
―君にちょっと…聞きたい…というか相談に乗ってもらいたいことがあって…。

少し照れ臭そうな顔でズボフスキーが話し始めた。

作品名:45 prelude 作家名:orangelatte