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永遠にともに〈グリプス編〉1

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section1 始動

U.C.0084年9月 シャア・アズナブル率いる船団は地球圏に到着した。

「アクシズを出立してもう11ヶ月だぜ。随分掛かっちまったなぁ」
艦橋でリカルドがぐったりとしながらボヤく。
「船団率いていたんだ。仕方あるまい。」
アンディがリカルドの肩を叩きながら艦長席のシャアに振り返る。
「大佐、お疲れ様です。」
「ああ。しかし作戦はこれからだ。気合いを入れていくぞ。よし、各艦との回線を開け!」
シャアがオペレーターに指示を出すと各艦の艦長がモニターに映し出される。
「諸君、いよいよ地球圏だ。連邦に発見されるリスクを回避する為、艦隊での航行は只今を持って終了!」
『はっ!!』
「以後、打ち合わせ通り各艦個別作戦に移行する!」
『了解です!シャア大佐!!』
「諸君の健闘を祈る!!」
通信が終了し、シャアは艦の目的地を指示する。
「本艦はこれより公国軍拠点アムブロシアに向かう!!」
シャアを乗せた艦は公国軍拠点アムブロシアに向かい、そこからシャアと側近であるアンディ、リカルドそしてアムロのみ“ジオン独立同盟”の拠点のあるサイド3へ移動。そこで潜入の協力者であるジョルジョ・ミゲルとその妹、ナナイ・ミゲルと合流する。

「久しぶりぶりだな、ジョルジョ、ナナイ。」
以前サイド3を視察した際世話になり、今回の潜入作戦の協力者でもあるジョルジョ・ミゲルとナナイ・ミゲルに再会した。
「シャア大佐、ようこそ!」
ジョルジョとシャアが握手を交わす。
「アンディ中尉、ロベルト中尉、アランさんもようこそ!」
ナナイが4人をソファーへと促す。
「ナナイ、連邦のニュータイプ研究所への潜入の方はどうだ?」
「そうですね、研究自体はジオンに比べると大分遅れていますがアプローチが違うので刺激にはなります。それにアーネストさんも協力して下さるのでとても捗っています。」
アムロを連れて連邦からアクシズに亡命してきた研究者、アーネスト・フォースは以前のサイド3への視察の際、ニュータイプ研究を進めるナナイ・ミゲルの元に残り研究の協力をしていた。
「それに、まだ見る事は出来ませんがガンダムのパイロットの実験データも保管されているようです。」
ナナイのその言葉にアムロが反応する。
以前サイド3に視察にきた際は素性を隠し、“アラン・マス”として接していた為ナナイはアランがアムロ・レイだと言うことを知らない。
そこにコンコンとドアをノックする音がする。
「アーネストです。失礼します。」
部屋に入ってきたのはアーネスト・フォースだ。
「アーネストさん!!」
アムロは立ち上がるとアーネストに駆け寄る。
「アムロ君!久しぶりだね。少し大人っぽくなったかい。」
2人は軽くハグを交わすとアーネストがアムロの頬に手を当て微笑む。
「大人っぽくっじゃなくて、もう大人です。オレ、もうすぐ23ですよ。」
「ああ、そうだね。どうも16歳の君の印象が強くて。すまないね。」
2人のやり取りをナナイが呆然と見つめる。
「…アムロ?」
シャアがそのナナイの表情にクスリと笑う。
「ナナイ、すまない。以前は状況から明かせなかったが実は彼がアムロ・レイだ。」
「え?!」
アムロがナナイに向かって頭を下げる。
「すみません。騙すような事をしてしまって。」
「えええ!」
ナナイが目を見開いて驚く。隣のジョルジョも驚きを隠せない。
「しかし、アーネスト君。アムロの実験データというのは気になるな。」
「はい。僕がアムロ君を連れて出る時、データも持ち出そうとしたのですが管理が厳重で一部しか持ち出せなかったんです。おそらく今、ナナイさんのいる研究所には全てのデータが揃っているはずです。」
「そうか…。ナナイ、ではその件については情報が入り次第連絡してくれ。」
「はい。わかりました。」
その言葉にアムロが目を伏せる。
「アムロ…。君のデータを悪用されたくない。それに君の身体の事もある。君は言わないがまた少し体調が思わしくないだろう?」
「あっ…、うん…、体調は頭痛くらいでそんな大した事は…。それより…」
俯くアムロをアーネストがそっと抱きしめる。
「アムロ君、データの運用については君が責任を感じる事はない。」
「でも…」
「アーネスト君、何か心当たりが?」
シャアは2人の様子に眉を顰めながら問う。
「アムロ君の実験データは強化人間の研究に使用されていると思われます。」
「強化人間?」
「はい。投薬や身体への負荷をかけて人工的にニュータイプを作る実験です。ムラサメ博士が率いる研究チームが進めていました。」
アムロは泣きそうな顔をして俯く。
シャアは立ち上がるとアーネストの腕からアムロを奪い、自分の横に座らせて肩を抱く。
「この話はここまでだ。これからの計画を聞こう。」
ジョルジョはその様子に唖然としつつ説明をする。
「はい。皆さんの軍籍については5日後に私がルナツーの拠点での当直の際にデータを書き換えますので、それ以降みなさんのIDが有効となります。」
「それで連邦の要人との面会はいつになる。」
「はい。ブレックス准将とは来週サイド1で面会して頂きます。」
「了解した。それでは今日はこれで失礼する。」
シャアは席を立つとアムロを伴い部屋を出て行った。
その後ろ姿をアーネストが溜め息混じりに見つめる。
「アムロ・レイを大佐に取られてしまいましたね。」
皆が出て行った後、ナナイに言われアーネストが肩を落とす。
「僕もいい加減諦めれば良いんですけどね。距離を取れば諦められると思ってサイド3に残ったんですけど。姿を見たらやっぱりダメでした。」
「けれどまさか、彼がアムロ・レイだったなんて…。彼の容姿は実年齢よりもかなり若い様に思いますがもしや実験の影響ですか?」
アーネストは溜め息をつくとアムロのこれまでの経緯をナナイに説明した。


シャアとアムロは充てがわれた部屋に戻るとベッドに並んで座る。
「シャア…。強化人間の事…黙っていてすみません。」
「いや…。何となくそんな情報は入っていた。それにジオンもどうやらクローンを使った研究を進めているらしいからな。」
「クローン?」
アムロが顔を上げる。
「ああ、生まれながらの強化人間だそうだ。どこまで進んでいるのか詳細までは分からないがどこも似た様なものだ。」
「ハマーン様もニュータイプ研究の被験体になっていましたね…。」
遠く離れた少女を思い出す。
「そういえばルシファを彼女に預けたそうだな。」
「あ…、はい。オレもルシファには凄く助けられたのでハマーン様の心を少しでも癒し、支えになればと…。」
「そうか。」
ルシファ…アムロの愛犬。不安な時、寂しい時、茶色のフワフワな毛に顔を埋めて眠ると安心した。1人でアクシズを纒める孤独な少女をどうか支えて欲しい。
アムロが遠いアクシズに思いを馳せているとシャアが覆いかぶさってきた。
「シャア!?」
「アムロ。私も癒してくれ。」
アムロはサラサラの金髪を指に絡めてその頭を胸に抱きしめる。
「もしかしてさっき妬いてました?」
「当たり前だ!アーネスト・フォースが君にまだ想いを寄せているのは明白だからな。あの場で殴り倒さなかったのを褒めて欲しいくらいだ!」