アネモネ 白
「プロイセン、お前も知っているだろう。私は父には愛されなかった。父の愛を私は知らぬ。そんな私が我が子を愛せるのか解らない。父のようになってしまうのが怖かったのだろうな。今になって思う。そして、子を儲けずこの歳になってしまった。この歳で子を授かるのは難しいだろう。…だから、私はお前を息子だと思うことにした」
「いや、諦めるなよ。作ろうぜ、子ども!」
次の王はどうなってしまうのだ?プロイセンは王を見やる。王は相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「お前の面倒だけで、私は手が一杯だ。後継には甥のハインリヒがいる。私は親として、お前を愛そう」
「…何だよ。それ…」
今まで誰も自分にそんなことを言ってくれたひとはいなかった。プロイセンは目の奥が熱くなってスンっと鼻を啜った。
「…お前より、俺のほうが年上なんだぞ」
「知ってはいるが、お前はどうも子どもぽさが抜けぬようだ」
「な!」
顔を上げたプロイセンに王は目を細める。
「今まで甘えることを知らずに生きて来たのだろう?…私もだ。だから、お前は私に甘えるが良い。私もお前に甘えよう」
王の言葉に瞳を瞬いて、プロイセンは笑おうとして失敗して顔を歪めた。
「…何なんだよ…もう」
その言葉を嬉しいと思う。嬉しすぎてどんな顔をすればいいのか解らない。プロイセンは呟いて、俯いた。それを白い花が微笑うように風に揺れる。
「この花の名を知っているか?」
揺れる花に王が口を開く。それにプロイセンは首を振った。
「アネモネと言うそうだ」
「アネモネ?…お前、花の名前なんて良く知っていたな」
「…姉が教えてくれたのだ。この花の前では嘘を吐いてはいけないと。真実だけを語らねば、触れた指先が朽ちてしまうと言う。…試してみようか?」
花の茎に手を伸ばした王の手をプロイセンは遮る。王は顔を上げ、プロイセンを見やる。
「疑う訳ないだろ。俺がお前を」
プロイセンはほんの少し空いた間を詰めると遠慮しつつも、そっと王の肩に頭を凭せた。
「…ありがとう。お前が俺の王で本当に良かった」
王は微笑うとプロイセンの肩を抱き寄せる。
「何を言う。私こそ、お前の王で良かった。どうか、これからも共に」
誓う言葉にプロイセンは頷く。傾き始めた陽の光に白い花は二人の間を揺れた。
おわり