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47 アレクセイの脱獄

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ー アレクセイ・ミハイロフ、脱獄成功!
1911年早春ー

ボリシェビキ、サンクトペテルブルク支部にその朗報が伝えられた。

「ユリア!」
ー 良かったなあ。

支部の皆がユリウスを祝福する。
たった16で乳飲み子を抱えて夫と離れ離れになったあの時の少女のー、出勤初日に自分たちを睨みつけた、あの勝気な少女の面影が、一同の脳裏に鮮明に蘇る。

あれから早6年。あの時の勝気な少女は大人の女性になり、立派に仕事をこなし十分に支部へ貢献して今やこの支部に欠くべからざる存在となったばかりか、ときに周囲の手助けを得ながらも息子も立派に育てて、その生き方は彼女を知る誰からも尊敬されるものとなっていた。


「うそ…」

夫の脱獄成功の報を受け、ユリウスの碧の瞳に涙が溢れる。

「うそじゃないさ…。今までよく頑張ったな、ユリア。奴は休養の後、今週末にこちらへ戻ってくるそうだ。…なんでも脱獄の際に収容所が火災に見舞われて…あいつ以外の囚人が全員焼死したそうだ…」

アレクセイ脱獄に湧いていた支部の面々がその事実に一同押し黙る。

今回の脱獄計画は、想定外の災難に見舞われ、その犠牲はあまりに大きなものだった。

ユリウスは誰にも見えないようにこっそりと十字を切り、この度の犠牲者の冥福を祈った。

「ユリア、週末は駅まで奴を出迎えてやれ」

「そうだ!ミーチャと二人で行ってこいよ。奴さんミーチャとは赤ん坊のとき以来だろう?驚くぞ?」

「え⁉︎…でも今決算で忙しい時だし…」


「いいわよ、そんなの。あなたずっと休日返上で頑張ってたでしょう?半日ぐらいどってことないわよ」

「ジーナさん…皆さん」
ー ありがとう…

夫の帰還と、同志の心遣いに感極まり、とうとうユリウスの涙の堤防が決壊した。
彼女の碧の瞳からとめどなく流れる涙に、

「ほら、お嬢ちゃん、使えよ!」

とその場にいた党員全員がポケットからくちゃくちゃのハンカチを取り出し、ユリウスに差し出した。

その差し出された無数のシワくちゃハンカチに、思わずユリウスが目を見開く。

「プッ!」

涙が止まり、頰を濡らしたままユリウスが身体を折って笑い出す。

「ありがとう、皆さん。…でもお嬢ちゃんって…すっごく久しぶりに呼ばれた。…アハハ」

口に手を当てていかにも可笑しそうに笑うユリウスに、一同ハンカチを手に気まずそうな笑みを浮かべながら互いに顔を見合わせる。


「ほら!その小汚いハンカチしまう!もう!どういう神経してんのよ?…ユリアも!ほら、いくら別嬪さんだからって、顔が涙でクチャクチャよ?顔洗ってらっしゃい」

そんな支部の面々にジーナが容赦なく突っ込むと、ユリウスの濡れた頬をハンカチで拭ってやった。

「…はい」

優しく涙を拭って貰ったユリウスがジーナの背中に両手を回す。
そんなユリウスに、ジーナは彼女の金の頭を優しく撫でた。

作品名:47 アレクセイの脱獄 作家名:orangelatte