47 アレクセイの脱獄
「ねえ、ミーチャ…。ミーチャはファーターが帰って来たら、何して欲しい?」
その日の夜―。
ささやかな夕食の後、ユリウスは息子に訊ねた。
先程から熱心にお絵描きに勤しんでいたミーチャは、母親に問われ、亜麻色の頭を上げた。
暫く考えるようなそぶりを見せたミーチャが
「かたぐるま」
と答える。
ー イワノフのおじさんがたまにしてくれるんだ。
そう言ってニッと笑った顔が、どことなく父親の笑顔を思わせた。
「そっかぁ。肩車かぁ」
ー ミーチャ、何描いてるの?
ユリウスが息子が熱心に描いている絵を覗き込む。
「汽車」
ミーチャが手を止め、描きかけの絵を母親に見せる。
「よく描けてるね〜。ミーチャは、汽車が好きだねえ」
ユリウスが手を伸ばして、ミーチャの頭を、頰を撫でる。
母親に褒められたミーチャが顔を綻ばせる。
「ムッターは汽車乗ったことある?」
「あるよ〜。ムッターは、15の時に汽車に乗ってファーターとファーターのお姉さんと三人でドイツからこの国に来たんだよ」
「ふうん…。いいなあ、ムッター。僕も…汽車に乗りたいなぁ。ムッターと僕とファーターと…あとアリョーシャで、みんなで汽車に乗りたい!」
そう言ってミーチャは、母親に生き写しの碧の瞳を輝かせた。
作品名:47 アレクセイの脱獄 作家名:orangelatte