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PEARL

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2.

いつものように、シャカが目覚めた時にはミロの姿はなかった。
肌を重ねても、心は重ならないまま。
身体に残された印すら、ただの情事の跡でしかない。
ミロにサガの幻影を重ねながら、初めて抱かれたあの夜。
ミロにサガを求めてしまった罪悪感と共に、情熱のままに抱かれる悦びは至福なのだということを知った。

『俺は一人にしないから。おまえを一人にはしないから』

そう力強く言ってくれたのが、サガならば。
どれだけ私は嬉しかったことだろう。
それと同時に、私の欲しい言葉を与えてくれるミロに対する喩えようもない罪悪感が私を責め苛むのだ。
何も思わぬ相手ならば……責め苛まれることはないはずなのに。
どこかに、ミロへの淡い気持ちが潜んでいる。
私の心がサガにあると知っていても、なお、ミロはまっすぐに思いをぶつけてくる。
見つめる熱い眼差し。未知への世界へと誘う声に、指先に……甘い痺れを伴いながら堕ちて行く刹那の時を狂うように焦がれる。
心からの言葉に激しく動揺し、痛みを覚えながらも手を伸ばし、求めている。
優しい痛みに満たしてくれるから。


 ――サガに殉じたい。

 ――ミロに縋りたい。


二つの望みに激しく心が揺れる。
サガの前では一度たりとて見せたことのない涙をミロの前でなら、流すことができた。
誰にも己の弱さを見せたりすることはなかったのに、なぜ、ミロの前ではありのままの自分でいられたのだろう。
ミロは私の弱さを引き出すのだろうか。

「……ちがうな」

ぽつりと呟き、気だるい身体を起こして膝を抱え、顔を埋めながら考えに耽る。
私はサガが欲しい言葉を与え続けた。
けれども、サガからは与えられることがなかった。
ミロは私が欲しい言葉を与えてくれる。だから、私は心地よさを彼に感じ、己の弱さをぶつけるのだ。
サガに与えられなかったものをミロが与えてくれることを判っているから。
「私は与えられるばかりで……ミロに何も……それどころか、彼を傷つけるばかりだ」
それでも、ミロは私を求めてくれる。肌の温もりを与えてくれる。

「ミロ……」

彼の強さ、情愛の熱に溺れることができれば、どれほどの幸せを得られるのだろう。
でも、サガは?
想う者に心を告げることなく逝ってしまったサガを孤独にすることはできない。
―――結局、そうやって同じところをぐるぐると迷い、出口を見つけられぬまま思考するのだ。

「進む道が見えぬ」

ふぅと大きく溜息をついたのち身なりを整えて、ずべての迷いを振り払うために瞑想の場へと向かった。





蓮華座に足を踏み入れた時、足先にコツリと何かが触れ、怪訝そうにシャカは眉を顰めると、そっと閉じていた瞳を開けた。
そこにあったのは一つの古ぼけた分厚い本のようなものと、首飾り。

「これは?」

拾い上げ、まじまじと首飾りを見つめる。

「真珠か?なぜこのようなものが……ミロ?」

残留思念を読み取り、ミロがここに意図して置いたのだということに気付く。そして、もうひとつの古ぼけた本をぱらりと捲り、見覚えのある文字に「あっ!」と小さく声をあげた。

「サガの……日記、なのか?」

カノンが言っていたサガの日記が、何故このような場所に置いてあるのか。
そして、真珠の首飾りと共に何故ミロは置いたのか。
ぼやけて文字を読み取ることができなくなっていく。
胸の奥底でずっとしまいこんでいた感情が全身に広がっていく。
溜まった涙がぽつりと落ちて、小さな染みを作った。


「……サ…ガ……ッ!」


今になって知る、サガの想い。
真珠の乙女への想いは伝えられなかった私への想い。
ミロはそのことに気付かせるように真珠の首飾りを日記とともに置いたのだろう。

 ―――ミロ、君は何故?

今になって愛されていたことを知っても、私にはどうすることもできないのに。


 ―――届かない。
 もう、届けられない。
 伝えることができない。
 私の想いは……永遠に。


「うっ…あ…あああぁ……!」

日記を抱き締めながら、ありったけの声をあげて、その場に崩れるようにシャカは泣き伏した。


作品名:PEARL 作家名:千珠