PEARL
―――おまえは痛みを望むのか。
光へと変わるために、さらなる痛みを必要とするのか。
ならば、俺は……。
躊躇うことなく、毒針を刺し、おまえが痛みを感じる前に痺れを与えたい。
朧なるままに、虚ろなるままに、痛みが痛みではないことを願う。
シャカのすべての思考を奪い取るように愛撫を与え、高鳴る鼓動を感じ取りながら、彼の望むように激情のまま肌を重ねていく。
零れ落ちる涙に真珠の輝きが宿ったとき、シャカは深い眠りへと堕ちていった。
ミロは眠るシャカをしばらく見つめていたが、仄かな熱を惜しみながらもシャカから離れると、毎朝決まってシャカが訪れる場所に真珠の首飾りとサガの日記を置いた。
「ちゃんとサガと向き合えよ。」
そう呟き、自嘲的な笑みを浮かべたミロは天蠍宮とは逆方向になる下りの階段へと足を向けた。
双児宮を通り抜ける際に、まだ起きていたらしいカノンがミロの気配に気付き、「こんな時間にまた出かけるのか?」と小宇宙で語りかけてきたため、、ミロは「ああ」と短く返答した。
「ほどほどにしとけよ?」と笑うカノンに「そうだな」と僅かに笑みを浮かべながら、気配を消して進んでいくと、ようやく十二宮の入り口に辿りついた所でもう一度カノンに呼びかけた。
「しばらく聖域には戻らない。皆には適当に言っておいてくれ……悪いが後を頼む」と。
カノンはそのミロの言葉に面食らうと、慌てて後を追おうと双児宮から飛び出した。直接会って話しをしようとしたのだが、既にミロの気配が聖域にはないことを悟ると階段の途中で立ち止まった。
「あいつ……何があったんだ……大丈夫かよ」
カノンは眉を顰め小さく舌打ちし、ガシガシと頭を掻き毟る。しばらく考え込むように腕組みをしながら眉間に皺を寄せていたが、溜息を一つつくと、諦めたように双児宮へと戻っていった。