52 聖痕
父親とバーニャへ行ったミーチャが、父の身体中に無数にある傷跡に小さな手で触れる。
「これは?」
「これか…?これは街中で憲兵に撃たれた傷だな」
「これは?」
「これは…ペトロパブロフスク要塞でつけられた傷だな。…お前も好き嫌いばっかしてると、ペトロパブロフスク要塞にぶち込むぞ?」
「いや!ちゃんと食べるよ…これは?シベリアで熊につけられたの?」
「これは…シベリアで看守に鞭でやられたやつだ。熊に襲われたら、今頃俺は生きてねーよ。ー 坊主は熊が好きだな」
― どら、身体を叩いてやる。
そう言ってアレクセイは熱された石に水をかけた。
熱い石から蒸気が盛大に立ち昇る。
「うん!僕は熊が大好きなんだ。ムッターと動物園やサーカスに行って、ホンモノの熊も見たんだよ。犬の曲芸もいいけど…僕は熊が一等好きだな」
「そうか…。なあ、ミーチャ。…ユリアの、ムッターの腕の傷…あれ一体どうしたんだ?」
息子の身体を白樺の枝で叩いてやりながら、アレクセイがあの再会の夜以来ずっと気になっていた事を聞く。
ミーチャは暫く考えて思い出そうとするそぶりを見せていたが、
「分かんない」
と答えた。
― そうか…。そうだろうな。
あれは見たところ、そんなに新しい傷ではなかった。ユリウスもあまりそれに関しては多くを語らなかったし、ミーチャも憶えていないということは、やはりあの傷を負ったのは、かなり前―、恐らく俺がシベリアへ送られて間もない頃か―。
「ファーター?」
とりとめもない思いにふけってしまったアレクセイの顔を心配そうにミーチャが見上げる。
「あ、ああ。悪い悪い。そろそろ出るか…。帰って一度夕飯の支度をして、事務所にムッターを迎えに行ってやろう」
「うん!今日はムッターお手伝いの日だからね〜」
― ファーター、肩車して。
アレクセイとミーチャはバーニャを出て一旦アパートへと戻って行った。
「これは?」
「これか…?これは街中で憲兵に撃たれた傷だな」
「これは?」
「これは…ペトロパブロフスク要塞でつけられた傷だな。…お前も好き嫌いばっかしてると、ペトロパブロフスク要塞にぶち込むぞ?」
「いや!ちゃんと食べるよ…これは?シベリアで熊につけられたの?」
「これは…シベリアで看守に鞭でやられたやつだ。熊に襲われたら、今頃俺は生きてねーよ。ー 坊主は熊が好きだな」
― どら、身体を叩いてやる。
そう言ってアレクセイは熱された石に水をかけた。
熱い石から蒸気が盛大に立ち昇る。
「うん!僕は熊が大好きなんだ。ムッターと動物園やサーカスに行って、ホンモノの熊も見たんだよ。犬の曲芸もいいけど…僕は熊が一等好きだな」
「そうか…。なあ、ミーチャ。…ユリアの、ムッターの腕の傷…あれ一体どうしたんだ?」
息子の身体を白樺の枝で叩いてやりながら、アレクセイがあの再会の夜以来ずっと気になっていた事を聞く。
ミーチャは暫く考えて思い出そうとするそぶりを見せていたが、
「分かんない」
と答えた。
― そうか…。そうだろうな。
あれは見たところ、そんなに新しい傷ではなかった。ユリウスもあまりそれに関しては多くを語らなかったし、ミーチャも憶えていないということは、やはりあの傷を負ったのは、かなり前―、恐らく俺がシベリアへ送られて間もない頃か―。
「ファーター?」
とりとめもない思いにふけってしまったアレクセイの顔を心配そうにミーチャが見上げる。
「あ、ああ。悪い悪い。そろそろ出るか…。帰って一度夕飯の支度をして、事務所にムッターを迎えに行ってやろう」
「うん!今日はムッターお手伝いの日だからね〜」
― ファーター、肩車して。
アレクセイとミーチャはバーニャを出て一旦アパートへと戻って行った。
作品名:52 聖痕 作家名:orangelatte