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55 取引

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近頃自分の主であるところのヴェーラ・ユスーポヴァ嬢が沈みがちである―。
と、ユスーポフ家の警護として、この令嬢に仕えるリューバ・ウェイは感じていた。
そしてその理由は―、先日反逆罪で逮捕された幼馴染、アナスタシア・クリコフスカヤの事だろうと、リューバも容易に想像がついた。

密かに反政府組織ボリシェヴィキに協力をしていた公爵家令嬢、アナスタシア・クリコフスカヤは、ツアー先のウィーンで自首、緊急逮捕され、このサンクトペテルスブルグに身柄を強制送還されていた。
皇帝陛下の血縁筋の公爵家令嬢でありながら、ロマノフ王家へ反逆行為を行った―という事が重く見られ、彼女は極刑こそ免れたものの、シベリアの刑務所へと送られた。

― まるで…、10年前の…あの侯爵家の跡取りの事件と…全く同じではないか。

リューバがかつて反逆罪で捕えられ銃殺された、侯爵家の嫡男の事件と…聡明そうな彼の面差しを思い出す。
幼いリューバが宮廷に上がった時に見事なヴァイオリン演奏を披露していたその青年侯爵は、どこから見ても文句のつけようのない貴公子然とした身のこなしと風貌で、とても革命思想に身を捧げるような人間には思えなかった。

― こう次々と…、皇帝一家に近しい貴族からも反逆を企てるものが現れるとなると…もうロマノフ家の屋台骨もガタガタだな。今更クリコフスカヤ嬢を…アナスタシア一人を厳刑に処したところで…どうしようもあるまい。

号外の記事を読み返し、改めてリューバは大きなため息をついた。

作品名:55 取引 作家名:orangelatte