55 取引
「ヴェーラ様、そういつまでも塞いでいては身体に毒です。リューバが郊外の森まで馬を出しましょうか?」
友人の処遇に心を痛めているヴェーラに、リューバが提案する。
「いえ…。いいわ。ありがとう」
この主とて親しくしていた友人を出来るならば手を尽くして救いたいのだ。
しかし―、皇帝の忠臣たるユスーポフ家の一族として、その望みは口に出してはならないものであることもヴェーラは理解していた。
立場と友を想う気持ちの板挟みになって苦しむヴェーラに、リューバが提案する。
「あなた様を苦しめるのは…クリコフスカヤ嬢…アナスタシアの事ですね。…彼女の事は私も知らない仲ではありません。あなたが立場上どうしてもその…お心に抱いている望みを外に出せないのならば、あなた様の代わりに―、このリューバが一つ骨を折りましょう」
― 私に任せて…。
リューバは珍しく雄弁に主に話しかけると、彼女の手を強く握りしめた。
作品名:55 取引 作家名:orangelatte