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56 悪運

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ミハイロフ家のアパートから程近いズボフスキー家のアパートに到着する。外から見えるズボフスキー家には珍しく既にフョードルが戻っているようで灯りがついていた。

「大変!フョードルもう帰ってる」

二人がアパートに入ると、アパート内は騒然としていた。

部屋から出て来ていた大家が帰って来たガリーナを見ると、目に安堵の涙を浮かべて駆け寄り、彼女の両手を握る。

「あぁ!ガリーナさん…。良かった!心配したんだよぉ?」

涙ながらにガリーナの両手を摩る大家に、ガリーナが不思議そうに

「何かあったのですか?」

と尋ねる。

「大ありだよ!…さっき憲兵共が家宅捜査に来てね。お宅が留守だったから、鍵を開けるように言われて…。勝手にあいつらを入れてしまって悪かったねえ。でもあんた外出していて、命拾いしたよ。あいつらの乱暴狼藉は日常茶飯事だから…。あんた一人で家にいたら何をされたか分からなかったよ。戻って来たご主人が、あんたはいないし部屋は荒らされてるしで…それは心配してたよ。オマケに旦那、怪我人まで引っ張り込んでたから…。さあ、早く行って安心させておやり!」

親切な大家の老婆がそう言ってガリーナを急かした。
ガリーナとユリウスが目配せして、二人の部屋へと急ぐ。

「フョードル!」

「ガリーナ‼︎」

いつも穏やかで落ち着いたフョードル・ズボフスキーが珍しく血相を変えて、帰宅した妻をギュッと抱きしめる。

「心配したぞ‼︎帰ったら、真っ青な顔した大家の婆さんに憲兵が押し入った事を聞かされて…。お前はいないし…思わず憲兵に連行されて…最悪な想像をしたよ」

ガリーナを抱きしめながらズボフスキーはそう言うと、「無事で…良かった」と呟き、ガリーナにキスをした。

「フョードル…ごめんなさい。ついユリアの家で編み物とお喋りに夢中になっていて…気づいたらいつもよりずっと遅くなっていたの…」
夫の腕に包まれてガリーナが心配かけた事を詫びた。

「フョードル、私からも謝るよ!ごめんなさい。ついガリーナを引き留めてしまって…。これから気をつけます」
ユリウスの謝罪に、ズボフスキーはいつもの優しい表情で「気にするな」というように首を横に振ると、彼女に目で部屋の奥を促した。

部屋の長椅子には、腕を負傷し、血の気のない顔でぐったりと身体を沈めているアレクセイがいた。

「アレクセイ⁈」

ユリウスが長椅子の夫の元に駆け寄る。

「軍で反旗を翻した人間の強奪で…護送の兵士とやり合ったんだ。腕に被弾して、応急処置はしたが、血もだいぶ失って、肉も抉られてるので、傷は深い。…どうする?ユリア。今日はここでアレクセイを泊めてやって…明日医者に見せてからアパートに帰してもいいが…」

ズボフスキーの有難い申し出に、ユリウスが迷う素振りを見せる。

確かに目の前の夫は苦しげに低い唸り声を時折上げている。これから発熱もするだろう。

「ありがとう…。では…」

「…いい。大丈夫だ。…帰れる。ありがとう…ズボフスキー」

ズボフスキーの申し出を有難く受けようとしたユリウスの言葉を苦しそうな声でアレクセイが遮った。

「アレクセイ?無茶だよ」

ー 近いし大丈夫だ…。すまんがユリア、肩を貸してくれ…。

そう言うとアレクセイは大義そうに長椅子から立ちあがった。慌てて夫の身体をユリウスが支える。

「分かった。じゃあ気をつけて帰るんだぞ。…ユリア、明日医者に見せてやれ」
「分かった。今日はお世話になりました。ありがとう、フョードル」

夫の身体を支えながら玄関先でユリアが再び頭を下げた。

「ユリア…これ」

奥からガリーナが出て来てユリウスに小さな包みを手渡した。

「これ、鎮痛剤。…フョードルが前に怪我を負った時のもの。明日お医者様が処方して下さると思うけど…多分今晩辛いと思うから…」

そう言って包みを手渡しユリウスの手をギュッと握った。
ー 偶然の巡り合わせだったけど、今日、あなたの家に長居したお陰で…私は命拾いした。ありがとう。

小さな声で涙ながらに感謝の言葉を告げるガリーナに、ユリウスは優しい目で首を横に振った。




数ヶ月後ー
1912年初秋。
ガリーナは夫と友人一家に見守られ、元気な赤ん坊を無事出産した。

エレーナ・ズボフスカヤ。
ガリーナが望んだ、可愛い女の子だった。
作品名:56 悪運 作家名:orangelatte