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愛よりも恋よりも深く  2

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瑞々しさを含ませた色とりどりの果物が店先に並んでいる。今は温室栽培など技術も日々進歩しているので、旬のものはもちろん季節がずれている果物まで食べられる様になっていた。
 物珍しいわけじゃないけれど、この時期にない筈のものがあるのに、少しだけ心を惹かれる。
 新一が赤く熟した小さな林檎を手に取ると、背後から平次が呆れた声を出す。
「見舞いに林檎もええけど、なんか淋しいんとちゃう?」
「別にこれにしたいわけじゃねーよ」
「なんや、食いたかったんか? せやったら、買ったるで」
 あっさりと新一の手から林檎を奪い取り、ほなこれも追加やと店員の女性に渡した。
「おい、服部っ」
「ええから、ええから。ほな、準備するもんもしたし、行こか」
 手に持っているのは林檎が一つ入ったビニール袋と、オフホワイトの包装紙に包まれたマスクメロンの入った箱。なんとなく手ぶらでは…と、病院に行く道でフルーツショップを見つけて立ち寄れば、さすが病院の近隣だけあって、見舞い用の包装は手慣れており、あっさりと買い物が終わる。
「行きたないて顔しとるで、工藤」
「…うるせぇよ」
「事実やんか。なんかややこしい事考えとるんとちゃう? 顔見せたら、また事件の事思い出させてまうとか、辛い想いさせてまうとか。ほんま、工藤の悪い癖やで」
 新一の顔が微かに図星をさされて微かに強ばる。
 昨日、平次は自分がメールに込めたメッセージに応え新一の元に来てくれた。
 心が弱くなっていて、誰かに縋りたかった。心許ない足下を照らして欲しくて……蹲りそうになる自分を叱咤して欲しくて。
 ……そんな時に思い出した、太陽の様な平次の明るい笑顔。素直に弱みを見せられない新一にいつもさり気なく手を差し伸べ、負担にならないぐらいの優しさで甘やかせてくれる。
 他人とべったりするのが嫌いな新一の性格を把握しているから、ちょうど居心地のいい距離を計れのだ。
 気がついたのはこの姿を取り戻して少ししてから。
 馴染みの刑事から殺人事件の助言に呼ばれた時、ちょうど東京に遊びに来ていた平次も同行する形になった。
 現場の状況や詳しい事情を刑事から聞き出した後、推理に没頭しようとしたが、被害者である両親の怒りと憤り、勝手に事件に飛び込んできた若輩者を嘲笑う関係者の声に集中力が少しずつ削がれていく。ほんの僅かなものでも聞き漏らしたり見逃したりは出来ない。
 自分の出す結果には、死者の想いやこれから残された者の未来が掛かっている。
 ポーカーフェイスは得意なので、内心の不快さを顔に表す事は絶対にしない。
 それでも、一旦落ち着きを取り戻したくて関係者を諫めようと口を開きかけた時、先に行動に移したのは平次だった。
「ほんなら、あんたらのアリバイをもういっぺんあっちの部屋で聞かせてもらおか。…警部はん、ええですよね」
 口の端を微かに上げ、目暮に了解を取る。
「あ、ああ、かまわないが。しかし、服部君。もう一度聞いても変わらないんじゃないのかね」
「変わらへんかもしんし、変わるかもしれん。まあ、人の記憶なんて曖昧やから。……けど、俺は自分のこの耳でちゃんと聞きたいんですわ」
 二人には高木から各自のアリバイを伝えられていた。
 警部の指示で渋々部屋を出ていく関係者。最後に服部が出ていく。そして、扉を閉める間際に向けられた目に、新一は平次が自分の為にしなくてもいい行動に出たのだと瞬時に察した。
「ほな、こっちは工藤に任せたで」
「ああ、サンキュ」
 軽く手をあげた後、服部がドアを閉める。やがて静寂に包まれていく空間。
 新一は一度深呼吸をし意識を集中し、この部屋に残された殺人という忌まわしい事件の記憶を手繰り寄せていく。
 どこかに残っている筈のトリックの証拠を探し出す。自分の推理が間違っているのか、いないのか。見極める為に、新一は部屋をゆっくりと物色し始めた。
(考えてみたら、…こいつ俺がコナンの時から甘やかしてるんだよな)
 大阪に呼び寄せたのは、夢で新一が刺されるのを見たから。
 犯人が新一の尊敬していたスポーツ選手だと解り落ち込んでいた時は、相手なりの優しさで慰められた。
 他にも思い出せばきりがないくらいに、平次は常に自分を思いやってくれている。
「工藤、どないしてん。 ……て、やっぱやめよか。ここまで来てもうてなんやけど、無理させたないし」
「何言ってんだよ。俺は大丈夫だってーの」
 強引に振り回そうとするくせに、最終的にはこっちの気持ちを優先させてくれる。平次の優しさに新一の心がゆっくりと溶けていった。
「せやけど…」
「ほら、せっかく買ったんだから無駄にするわけにはいかねーだろ。行くぜ、服部」
 ぽんと軽く肩を叩く。
 さっきまで躊躇していた足が軽くなって、新一はさっさとショップを後にしていく。後ろから「ほんま気分屋やねんから…」と呟かれたが、言葉とは裏腹に平次の声には安堵感が滲んでいたので、新一はあえて聞こえない振りをした。






「…こんにちは、岬さん」
 四角く切り取られた白い空間にあるのは、ベッドと備え付けのテーブル、それに簡単な収納用のロッカーだけ。個室なのは、きっと事件の関係者だからだろうと解釈する。
 サイドテーブルに置かれたピンクローズだけが無機質な部屋に彩りを添えていた。
 岬沙耶は起きあがって本を読んでいた。緩いウェーブのかかった髪を後ろで一つに束ねて、化粧気のない顔は微かに青白く、数日前に見た彼女よりも儚げに見え、新一の胸が微かに痛む。
「工藤君、それに……」
「初めましてやな。工藤とおんなし高校生探偵で、服部平次いうもんや」
 少しの間があり、ああ…と何かを思い出す。
「ああ、あなたがそうなのね。噂は聞いてるわ」
「噂て、俺関西人やのに?」
「高校時代の同級生が大阪にいるのよ。しかも、あなたに助けて貰ったって言ってたわ」
 彼女の顔が綻ぶ。笑うと表情に色がついて微かに生気が戻った気がした。
「俺が助けたて事は、事件絡みっちゅーわけか」
「服部が関わった事件て結構あるからな。その中で容疑者扱いされた誰かが、岬さんの同級生ってわけか」
 西の名探偵という名称を背負っているくらいだ。平次が解決してきた事件は数多くある。
「村澤良和。精神科医って言ったら分かるかな」
 その名前に平次はすぐに思い出したのか、「ああ、あの人なんや」と納得した。精神科医……医者関係の事件と言ったら、二、三ヶ月前に平次が真犯人を見つけだしたものだった。被害者は村澤の担当する患者で、殺害される前日に村澤とその患者が揉めているのを、同じ医者である同僚に目撃されたのだ。
 お前の所為だ…などと糾弾され医者としてのプライドを踏みにじられたらしいと、その同僚が証言していた。
「ああ、あの優しい医者やったら覚えとる。同僚に罪なすりつけられたっちゅーのに、ちっとも怒らへんねんからな。それ所か、気づいてやれんかったって、淋しそうにしとったわ」
「あの人は優しいから……」