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愛よりも恋よりも深く  2

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 その台詞に、新一は村澤と岬の関係が、ただの同級生じゃないとすぐに気づいた。高校の同級生という事は、卒業してから八年は経っている。大阪で精神科医として病院に勤めている村澤と、東京にいる岬に今でも接点があるとは考えにくい。高校が同じだけ…それだけで名前が出るのは、きっと深い繋がりがあったから。
「……その花、もしかして村澤さんからですか?」
 勝手な新一の憶測に、岬がはっとする。しばらくして、微かに頷いた彼女は本を閉じて改めて新一達に向き直った。
「ええ。昨日来てくれたらしいの。仕事が終わって新幹線でね。面会時間過ぎてるから会えなかったけど、これを看護婦の人に渡してそのまま帰ったみたい」
「誰が村澤さんに連絡を?」
「お節介な私の親友かな」
 自殺未遂をしたのを警察から聞いたのだろう。妹と岬の関係が良くないというのを教えてくれた相手を新一は思い出す。その人が岬の親友だと見当をつけた。
「僕の勝手な推測かもしれませんが、村澤さんと岬さんは付き合っていたんじゃないですか? ……それも、ここ数ヶ月前まで」
「工藤…?」
 どうして恋人がいた相手に見舞いの花を贈るのか。
 医療関係に勤めている者が面会時間に気づかない筈がない。……なのに、何故ここまで来たのか。
 ……多分、村澤が岬を大切に想っているからだ。
 服部が何を言い出すんだと、目で問いかける。
 反対に、岬は淋しそうな微笑みを口元にうっすらと滲ませた。
「やっぱり工藤君には解っちゃうのね。きっと、探偵だからじゃなくて……多分貴方だからそうなのかな」
 贈られた花に視線が向けられる。愛しさと切なさが混ざり合った瞳の色。それは、自分も持っているものだからすぐに気づいてしまった。
 誰かを大切に想えば想う程、見えなくなる心の本質。
 好きだから不安になり、逃げてしまう。
 岬のとった行動を責めるなんて出来なかった。
 ……たとえそれが最悪の結果をもたらしたのだとしても。
「あの人にね、見合いの話しがあったの。相手は病院の上司の娘でって、……今回のあの人と同じパターンね。良和は断るって言ってたけど、彼の両親は反対してたの。だって、上手くいけば病院での立場は一気に上になるのよ。みすみす逃すなんて馬鹿げてるじゃない。それに……」
「自分だったら、彼に何もあげられないから…ですか?」
「ええ。両親もいない、お金もあんまりない。そんな女になんの価値があるっていうのよ」
 自虐的になってしまう。
 彼には沢山の幸せを貰ったのに、自分は一つも返せない。それが辛くてしょうがなかった……。
「だから、仕事関係でしりあった片瀬と付き合う事にしたわ。向こうは私の見た目だけに心を奪われた。これでもエステ関係のスタッフなのよ、容姿には気を遣ってるんだから」
 どう見られているのかなんて、容易に知る事が出来たと自嘲気味に岬が笑む。
「…片瀬さんを利用したんですね」
「……ええ、片瀬と付き合う事にしたからって、良和に別れ話を持ち出したわ。…もちろん、片瀬を好きになろうとしたのよ。それに、彼も優しかったしね」
 けれど、それは自分の上辺が好きなだけだったんだと、今回の事件で確信したと岬が告げる。
「上司ってね、私が勤めてるサロンの経営者なの。片瀬はその経営者の娘と結婚すれば、会社の一部を任すって言われてたみたい。お金も地位も手に入る……」
「それが悔しくて別れなかったんじゃないですよね。……貴方がそんなに馬鹿げた考えするはずない」
 好きになれなかった男に縋る理由はたった一つ。
「あなたの前では何も隠せないのかもね……。そう、全部良和の為にした事よ。あの人はずっと私を好きだからって……。だから他の誰とも結婚する気はないって……」
 語尾が涙で濡れる。
 誰かの為を思ってしたものが、殺人という結果を生みだした。
 小さな歯車の軋みが大きなものとなり、やがて噛み合わなくなって、最後には歯車が壊れて止まってしまう。
「……あんたほんまにアホやな。なんで村澤さんの気持ちを汲み取ってやらんかってん。…あの人がどんだけあんたを愛しとるか解ってたんやろうが。自分と結婚したら不幸なる? そんなん勝手に決めつけんなや」
「…服部」
 今まで沈黙を守っていた平次が口を開く。
 真摯な瞳に怒気の色が滲んでいた。容赦のないものに、岬がきつい眼差しを平次に向ける。
「勝手にって…、人の気も知らないくせにっ」
「ああ、解らへんな。まぁ、解りとぉもないけど。あんたは相手の為を思って…なんて言うてるけど、別れるっちゅう事自体が不幸にさせてるて…なんで気づかへんねん。村澤さん言うとってんで、自分はやってへんてな。もし捕まったとしても、絶対に無実証明したるて」
「……良和が」
「言うとくけど、犯人扱いされるのが悔しいんやない。捕まってもうたら、あんたを幸せに出来んからな。前科のついた人間と一緒になったら不幸になるやろうからて、村澤さん俺に打ち明けとったわ」
 事件の渦中に投げ出された村瀬の心情を平次は岬に話し出す。
「絶対に幸せにしたい人がおるからやて。……自分、そんな人をこれ以上不幸にする気なんか?」
 自分よりも、愛しい者の幸せを願ってしまう。
「…きっと、村澤さんの想いはこれからも変わらないですよ」
「工藤君……?」
「その花瓶に生けられたピンクローズですが、花言葉は『温かな愛』。きっと、彼はずっと貴方を見守っていこうと思ったんじゃないでしょうか。薔薇が象徴するのは『愛情』ですからね」
 新一が告げたものに岬の方が微かに震え、頬にいくつもの雫が流れ落ちた。止まる事のないそれは、今まで胸の中にしまい込んでいた村澤への想いなのだろうか。
 偽って手放そうとしたものへの執着と未練はけして綺麗なものじゃない。
 けれど、綺麗なものだけで象られているのが愛情じゃないから。
「岬さん、これ俺達からです。次に会う時は、元気な姿でお会いしましょう」
「その時は、村澤さんもつれて来てな」
 もう一回会いたいしと、さっきとはうって変わって明るくなる平次の声。
 新一は改めて平次の器量の大きさに羨望を抱く。自分にはない心の広さと配慮。他人の為に怒り、他人の為に動く。一見簡単にな様で、実はすごく難しいものを平次は難なくやってのける。
「じゃあ、俺たちはこれで。…岬さん、幸せになってくださいね」
「ええ…ありがとう」
 誰に願えばいいのか分からない。
 それでも祈らずにはいられない時がある。
 新一は岬に微笑みかた後、病室を後にした。





 病院の建物を出れば、抜けるような青い空が目の前に広がる。
 そろそろ梅雨入り宣言もされるというのに、そんな気配は微塵もなかった。
「けど、あの人片瀬さんの事も好きやったんやろうな。そやなかったら、自殺なんてせんもんなぁ」
「ああ、多分な。良和さんを愛してただろうけど、片瀬さんの事も好きだったんだ」
「ほんま…分かりとうない感情やわ。俺やったら誰か一人だけ好きになって、そいつだけをずっと守っていくで」
「みんながみんな、お前みたいに真っ直ぐな愛情を持ってるわけじゃねーんだよ。世の中には不倫とか浮気があるだろ。あれが複雑な愛情の証拠だぜ」