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永遠にともに〈グリプス編〉4

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section 5 地球降下

その日、アムロはアーガマの私室で激しい頭痛に襲われていた。
地球圏に来てからアムロを度々襲う、頭を締め付けるような激しい頭痛。
「…っく…!」
そのあまりの激痛に声が出ないどころか、呼吸すらまともに出来ない。ベッドに突っ伏し、頭を抱えるアムロの身体を脂汗がいくつも筋を作り伝い落ちていく。
どのくらい経ったのか、数十秒だったと思われるが、数時間にも感じる程の激痛が徐々に治まっていく。暫くして、ようやく完全に頭痛が治まると浅い呼吸を繰り返す。
「はぁはぁはぁ…」
アムロはゴロリと身体を仰向けにすると大きく息を吸い込み深呼吸をする。
「はぁ…。キツいな…」
手の甲を顔に当てて溜め息混じりに呟く。
すると、扉の前にシャアの気配を感じる。
「ああ、さすがにバレるか…」
部屋のロックを解除しようとするが身体が怠くて動かない。どうしようかと思っていると、シュンっと扉が開く。
「アムロ、大丈夫か?」
心配そうにシャアがアムロに歩み寄る。
「もうっ…。何でオレの部屋の解除コード知ってるんですか?」
アムロが額に汗を浮かべながら力なく笑う。
「ブライトから聞いた。」
「…嘘つき…。ブライトさんが言うわけない。裏から手を回して調べたんでしょう?そう言えば、この間も部屋に入って待ってたことありましたもんね。」
シャアは少し笑うと、アムロの柔らかいくせ毛を撫ぜる。
「イヤだったか?」
アムロはゆっくり首を横に振る。
そして両手を広げてシャアを求める。
シャアはアムロに請われるまま、ベッドに横になるその身体を抱きしめた。
「貴方にされて嫌なことなんてありません。」
その言葉にシャアは肩を揺らすと頭を抱える。
「…まいったな…」
「何?オレ、何か変な事言いました?」
アムロは自分がとんでもない殺し文句を吐いた事にも気付かず、ただキョトンとしている。
「イヤ…、本当に君は…。」
アムロは、ひたすら理性と戦うシャアの背中に腕を回し、ギュッと軍人らしく逞しい胸に顔を擦り付ける。
「やっぱり、貴方の胸は安心します。」
アムロは胸に顔を寄せながら「ほぅっ」と息を吐いて呟く。
「君は私を試しているのかね?」
「え?何が?」
シャアは身体を密着させ、主張する己のものを押し当てる。その途端アムロの顔が真っ赤に染まる。
「君は本当に自覚が無いな。この間“お仕置き”されたのを忘れたのか?」
先日、エマに対する自分の態度が気に入らなかったらしく、シャアに “君は自分の態度や仕草が他人にどれだけ影響を与えるかを自覚しろ” だの “君は自分がどんなに魅力的か分かっているのか” 等と訳の分からない事をクドクドと説教をされた挙句、翌日腰が立たなくなるまで抱き潰されたのだ。
「忘れて…無いよ。」
何であんな事になったのかは未だに分からないが…。
ふぅっと溜め息をつきながら身体を起こすシャアの腕を慌てて掴む。
「でも…、貴方になら良いんでしょう?」
その言葉にシャアの動きが止まる。
「アムロ…」
「我慢なんてしないで下さい。」
上目遣いに見つめるアムロに心臓がドキリと跳ね上がる。
「しかし…、頭痛に襲われたばかりで体調が良く無いだろう?」
アムロはシャアの手をとり、その掌を自分の頬にあて、すり寄せる。
「大丈夫です。それに貴方に触れられている方が安心する。」
シャアは目の前にある琥珀色の瞳を見つめると、そっとその瞼に口付ける。
そしてそのまま唇で頬や額に優しく触れる。
「アムロ…」
アムロの頬を両の掌で包み込み唇の中に舌を滑り込ませ、深く甘いキスをする。
「あ…、明日はジャブロー基地攻略作戦で地球に降下するんですから、この間みたいに足腰立たなくするのはやめて下さいね。」
一応釘は刺しておく。
「努力しよう」
シャアは不敵に微笑むと、更に口付けを深めていった。

ーーーーー

大気圏突入の為、バリュートを開き地球へと降下する。
零式のコックピットの中でアムロは腰の痛みに耐えながら操縦桿を握る。
「痛っううう!シャアの馬鹿!手加減しろって言ったのに!」
目尻に涙を浮かべながらアムロが呟く。
そして、徐々に感じる地球の重力に、懐かしさと共に忌まわしい研究所での記憶も蘇る。
その記憶に操縦桿を握る手が微かに震える。
するとヘルメットの中にシャアの声が響く。
《アムロ、大丈夫か?》
全体にではなく個別通信が入る。
ーーーどうして…、どうしてこの人はいつもオレが求める時に必ず手を差し伸べてくれるのだろう。

地球へと降下する中、自分のすぐ側にいるであろう金色の存在に胸が熱くなる。
自分を癒し、支えてくれる大切な人…。
その愛しい人の声の力で手の震えが嘘のように治まっていく。
大きく深呼吸をすると操縦桿を握り直し、シャアに応える。
《もう…大丈夫。ありがとう…シャア…》
《了解だ。いつでも側にいる、安心したまえ。》
《ふふ、頼りにしてます。》
自然に笑みが零れる。

《全機!間も無く大気圏を抜ける。恐らく敵機が待ち伏せをしている。バリュートを切り離したら直ぐに戦闘態勢に入れ!》
シャアの指示にアポリー中尉をはじめ各機が答える。
《《了解!!》》

バリュートを切り離すと眼下に緑が広がる。そして作り物ではない青い空、身体にのし掛かる懐かしい重力に、地球に帰って来たのだと実感する。
「地球…か…」
操縦桿をグッと握り戦闘態勢に入る。
地上の木々の陰に敵機の気配を感じる。数は20機。
《敵機発見、丁度この真下。20機です》
《了解だ。ロベルト中尉とアポリー中尉の部隊は敵を迎撃!私とアムロとカミーユはジャブロー基地に向かう!》
《《了解!》》
木の陰から閃光が見えたのを合図に全機が離散し作戦開始となった。

《クワトロ大尉、今回のこの作戦…、ティターンズの罠だって貴方わかってるんでしょ?》
アムロの問いにクワトロが鼻で笑う。
《色々事情があるのだよ。》
アナハイムをはじめエゥーゴのスポンサーとなる者たちから、エゥーゴの活動について結果を求められている。今回のジャブロー基地攻略作戦は、そのスポンサー達からの要請で実行される事になったのだ。しかし、あまりにも不自然な情報提供や内通者からの連絡不通の状況から、恐らく罠である事は明白なのだが、敢えてその罠に嵌ってでも作戦を実行し、出資者達を納得させなければならなかった。

《罠だとわかっているからこそ、危険をいち早く察知出来る我々がジャブロー基地に向かうんだ。》
クワトロの溜め息混じりの言葉にカミーユも複雑な表情を浮かべる。
《戦争はお金が掛かるから…》
アムロが呟く。
《そういう事だ。大人になったな、アムロ》
《納得している訳じゃありませんよ》
昔の自分ならばこんな作戦を命令されたらブライトに食って掛かっていただろう…。そう思うと素直に作戦に参加しようと思える今の自分は多少なりとも成長したのだろうか…。アムロはそんな事を思いながら隣のMK–Ⅱを見つめる。
『彼も納得してはいないだろうが、オレと違ってオトナだな』

《どんな罠が仕掛けてあるか分からん。とにかく気を引き締めて掛かるぞ!》
《《了解!!》》

案の定、ジャブロー基地は既にもぬけの殻で、おまけに核爆弾が仕掛けてあった。