同調率99%の少女(13) - 鎮守府Aの物語
やはり自分とは異なる。神通は川内に対して改めてそう感じた。自分では思うようにやれないことを平然とやってのける。那珂といい川内といい、どうしてこうもアッサリやれるのか。
艦娘に正式に着任したとはいえ、気持ちを完全に切り替えられない神通は少し自信をなくしかけた。彼女は自分を変えたいを願ったのだが、元来持つ自信のなさがどうしても邪魔をする。神通は川内のように、艦娘になるにあたってこれまで在った自身の何かを犠牲にして完全に吹っ切れるには至っていないのだ。
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話しながら本館に入り、足を運ぶは艦娘の待機室。二人は那美恵のように、いきなり提督に会いに執務室に行くという考えにはまだ至らない。
そんな二人が待機室で目にしたのは、不知火と夕立という珍しすぎる組み合わせだった。夕立はいつもの中学校の制服ではなく私服だ。一方の不知火は先日川内たちが見た姿であり、五月雨たちの中学校のものとは異なる、彼女の学校指定の制服と思われる格好だった。
「こんちは、二人とも。」
川内は軽い口調で話しかける。
「こんにちは〜川内さん、神通さん!」
「……こんにちは。」
4人ともそれぞれ挨拶しあい、適当な席に座って落ち着いた。川内と神通は真っ先に夕立の私服が気になっていたので尋ねてみた。
「ねぇ夕立ちゃん。」
「はーい?」
「なんで私服なの?学校は?」
川内からの質問を受けて、夕立は待ってましたとばかりにドヤ顔で答え始めた。
「エヘヘ〜。実はねぇ、うちの学校、先週の土曜日に終業式だったの!だからもう夏休みなんだよ〜。羨ましいっぽい〜?」
「そうなんだ〜でもうちらだって今日終業式で、実質今から夏休みだし!」
川内の言い返しに神通はコクリと頷いて同意した。
二人の薄いリアクションを見た夕立は思い通りに行かなかったためか、唸って悔しがる。
「キーーー!二人ともつまんないっぽい!ぬいぬいもあんま悔しがってくれなかったし、後は五十鈴さんだけが最後の希望っぽい!!」
「……これでもかなり羨ましいと思ったのですが。」ボソッと不知火がつぶやく。
言われた時、不知火は相当悔しがっていたのだがポーカーフェイスすぎて夕立には不知火のリアクションがまったく理解できなかったのだ。
「え、不知火ちゃんにもまさか同じこと……したの?」
川内の確認に夕立がコクリと頷くと、不知火は表情一つ変えずに同様にコクコクと頷いた。その揃った様子に川内と神通はアハハと苦笑いをするしかなかった。
今まで口を開かなかった神通がようやく開き、不知火に質問をした。
「あの……、不知火さんのところは、まだ学校あるのですか?」
夕立が私服でいれば否が応でも気になってしまう対比の服だ。神通の質問に不知火は一拍置いて答えた。
「うちは明後日です。」
大事な単語をすっ飛ばされて一瞬理解が追いつかず、えっ?と眉をひそめる川内と神通。つまり明日終業式で、明後日から夏休みなのが不知火こと智田知子の中学校のスケジュールだということを数秒遅れて理解できた。
「そ、そうなんだー。あと1日大変だねぇ。」と川内。
「そうすると……今日はなんで鎮守府に?」
何かを気にし始めた神通がさらに不知火に質問する。
終業式を迎えてない以上、不知火(の学校)はまだ普通の授業がある日なのになぜ来ているのか。こうしてお昼すぎに鎮守府に来ているということは、特別な事情があることが予測される。
「今日は出撃です。」
不知火がぼそっとした声で言った。誰ととは言わない言葉足らずだが、この場を見るに誰でも察しがつく。不知火の言葉足らずを夕立が補完した。
「今日はねぇ、ますみんとぬいぬいと3人で出撃なんだよ〜。」
「お二人はなぜ?」と不知火。
「ええと、私たちは……初出勤をただなんとなく、したかったからなんです。」
「本当は那珂さんと来る予定だったんだけどねー。あの人忙しくて来られないというので先に来たの。」
夕立と不知火はふぅんと頷くだけで、それ以上話が続かなかった。その場には普段は話をなんとなく適切に広げてくれる那珂・時雨・村雨がいないためだ。その空気に若干焦る神通。一方で川内はその空気を別段気に留めていない。もう一人気に留めていないのは夕立だった。白露型の少女たちの中ではボケ担当なその少女が空気を読んで何かをするということはまずあり得なかった。
「そ、そういえば夕立さん。」
「はーい?」
「いつも一緒にいる……時雨さんや五月雨さん、村雨さんたちはどうしたんですか?」
手持ち無沙汰にペットボトルをピシピシと弾いていた夕立は神通に問いかけられてその手を休めて反応する。
「ん。ますみんは今てーとくさんのところに任務聞きに行ってるよ。さみと時雨はお家の用事で今週はパスだって。二人はいきなり夏休み楽しんでるっぽい〜。」
セリフの最後はやや表情を不満げにして声に表していた。
夏休みともなると、各々普段の生活のスケジュールが劇的に変化するので会いやすくなる反面、家族旅行などでいなくなると当分は会えなくなる。艦娘の世界とはいえ、基本的には日常と変わらないのだなと神通は感じた。
「五十鈴さんと妙高さんは正直よくわからないから置いとくとして、五月雨さんや時雨さんまでいないと、なんか来ても面白くないねぇ。夕立ちゃんたちはこの後出撃しちゃうんでしょ?」
「うん。ますみんが戻ってきたら多分すぐっぽい。」
川内は感じていたことを正直に述べると、夕立が想像で説明をしそれに不知火が頷いた。
「そっか。そしたらあたしと神通だけじゃん。あ!そうだ神通。執務室に行ってみない?提督に会いに行こうよ。」
川内の思いつきを聞いた神通は賛同しようと思ったが、夕立が言っていたことを思い出し、ひとつのことを察して頭を振って拒否した。それを見て目をぱちくりさせている川内に説明した。
「ちょっと……待って。村雨さんと提督は……今作戦会議中なのでは? 会議の邪魔をしてしまうのはいけないかと……。」
「そっか。そうだね。邪魔はいけないよね。うんわかった。」
神通から咎められて、川内はさきほど生徒会室で目の当たりにしたことを思い出した。那美恵たちは皆忙しそうにしていた。邪魔してはいけないと判断して出てきたというのに、同じことでうっかり提督の邪魔をしそうになってしまったと感じ、声のトーンを下げる川内。神通のとっさの判断により、川内は思いとどまることにした。もし神通が気づかなければそのまま執務室に突撃していたところであった。
ずっとただ待っているのも退屈と感じた川内は、お昼ごはんを食べに行こうと提案した。今度は神通も賛同したので昼食を買いに鎮守府を後にした。
なお、夕立と不知火はすでに昼食を済ませたというので気兼ねなく川内と神通は昼食を取りに出かけた。
作品名:同調率99%の少女(13) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis