58 引っ越し
ミハイロフ一家のアパートは、アレクセイがシベリアへ送られて間もなくミハイルが手配してくれた単身者向けの部屋だった。
単身者向け用なのでリビングの他には寝室が一つだけの必要最低限の間取りだったが、ユリウスと赤ん坊だったミーチャがそこへ移り住んだ当初はそれで十分事足りた。ミーチャがいくぶんか成長したのちも、母子二人で身を寄せ合って生活する分には何の問題もない広さであった。
が、昨年、アレクセイがシベリアから戻って来た。
ベッドだけは同志たちの厚意で何とかもう一つ用意してもらい、今はミーチャと夫婦、別々に寝るようになったが、相変わらず一つの寝室に二つのベッドを置き、今まで家族二人だったのが今度は家族三人で身を寄せ合って寝ている状態なのである。
「ああ、そうだったね。あんた達いまだに一つの寝室で家族身を寄せ合って寝てるんだったね。アハハ…、それじゃあ、腰すえて夫婦の時間も持てないね。あんたらだって…ミーチャの兄弟をもう一人二人作る気なんだろう?まだ若いんだし」
そう言って大家は豪快に笑うとユリウスの腕を肘で軽く小突いた。
「や、やだ~。おばさんたら…。でも…ハイ。もう一人ぐらいは…欲しいかな…と」
大家に冷やかされて顔を真っ赤にしながら、ユリウスも大家の言葉に同意した。
「ハイハイ…ごちそう様。若いっていいね~。…じゃあ、こういうのはどうだい?その引っ越し、うちのアパート内で間に合わせるってのは」
「え?」
作品名:58 引っ越し 作家名:orangelatte